スライムと道化師

 かしゃかしゃと音を立てて、おれの身体は元通りになる。


「あれ? 生きてるな。どうなってんだっけ、おれの身体」

 なんかいくつかパーツが足りない気がするけど、まぁいいか。

「セブン、すごい! どーなってるのそれ!」

「おまえは黙って下がってろー!」

 フィーナはとぼとぼとクルスたちの位置まで後退する。


「ネクロマンサーに使役されるスケルトンナイト。そうか、マスターはあいつか。しかし、彼は死んだはず」

 さすがミノさん博識。

「そうなんだよ。それなのに、おれはまだ動いてるし、魔力の供給なしでも復活できてるんだよ」

「……謎だな」

「……謎だ。ま、この世界は謎だらけだよ」

「違いない」

 おれは剣を握る。腕力なんてものはないだろうに、剣は重たくない。


「おれの役割はタンクってところか。ミノさん、おれがヤツをひきつけるから、隙を逃すな」

「御意」

 おれはリザードマンに斬りかかる。いとも簡単に弾かれ、反撃される。おれはばらばらになる。

 リザードマンは目標をミノさんに切り替えようと振り返る。その間におれはまた元通り。背を向けた状態のリザードマンの背中を斬る。

 ヤツにダメージはほとんどない。だが、注意はこちらに向いた。その瞬間、ミノさんの斧がリザードマンの肩口に落ちた。

 リザードマンは低く唸るものの、戦意はまるで喪失していない。普通のヤツなら致命傷だぞ、あれ。


「ミノさん、援護します!」

 クルスの投げた変な形の2本のナイフが、ゲイルの風魔法にのって高速で飛ぶ。そしてそれがリザードマンの両目に突き刺さる。

「これでしまいだ! ぬおおおっ!」

 横一閃。ミノさんの斧が、黒いリザードマンの首を斬り飛ばした。


「……や、やったか……」

 おれたちは力を抜いた。それがまずかった。


 リザードマンは首だけで……跳んだ。狙いは、ミノさんの喉笛。完全に油断していたおれたちは、誰も動くことができなかった。




「あぶなーい! えい」

 青いぽよぽよしたものが、天井からリザードマンの首めがけて落ちるのが見えた。

「……ブルー!?」

 ついてきていたのかあのスライム!

「にんげんさんたち、はじめまして! ぼく、ブルー! よろしくね!」

「は、はい。よろしく……です」

 リザードマンの首を包み込んだスライムに戸惑う人間2人。いや、おれもびっくりだが。

 ってかブルー、なんか性格がフィーナに似てるな。あいつに影響されているのか?


「ぐ……ぎ、ぎ、ぎ」

 リザードマンの頭部が溶けてなくなった。

 スライムこえー。え? 酸性なのあいつ。


「ふー、おなかいっぱいー! あれ? なんかへんだな。ううん」

 ブルーがぷるぷる震える。ぶるぶる震えて、なんかぐにぐに伸びたり縮んだりしてる。

 変なモン喰うからだろ。やべーんじゃねぇのか、あれ。


「うーん、うーん。あ、なおった! みんな、僕も冒険に連れて行ってよ! 仲間に入れて!」

「……ブルーよ。助けてくれて感謝する。もちろん、パーティに入ってくれて構わない。しかし、今日の冒険はここまでだ。危険な魔獣が発生した原因を突き止めなければ」

「えー! そんなぁ」

「すまんな。次の冒険は必ずお前を連れていくことを約束する」

「……残念ー。でも、わかったー。楽しみにしているね」

 ん? ところでフィーナがやけに静かだな。おとなしい。おとなしすぎる……って思ったらあいついねぇじゃねぇか! まさかダンジョンの奥に!?


「あ、みなさんこちらでーす」

 フィーナがぞろぞろと誰かを引き連れてきた。

「びっくりした? 居住区の外に【上級冒険者】のみなさんを待機させてたのだー! えっへん。あ、それじゃあみなさん、調査お願いします」

 上級冒険者の連中はぞろぞろと奥へと進んでいった。


「あとはあの人たちに任せて、ワタシたちはモンスター居住区にもどりましょ。おいしい紅茶とお菓子、用意してあるんだー!」

「あ、ああ」

「うん、うん。ちょっとしたイレギュラーはあったけど、みんなちゃんとコミュニケーションとれたし、助け合うために連携とれたし、これなら理想が実現できそう! 帰ったらレポートいっぱい書いて、ギルドに提出しなきゃ!」


 フィーナ──こいつ。とんだ道化か。全部こいつの筋書き通り事が運んだってわけか。かき乱したのもわざとだな。

 おれが察したのを知ってか知らずか、フィーナはすげー下手くそなウィンクをしてみせるのであった。

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