マッド☆ティーパーティー

 お茶会。といえば聞こえはいいのだがな。

 ガイコツと、スライムと、ミノタウロスと、汚ねー女と、元殺し屋と、内気な魔法使いが会するという何とも異様な集いだ。

 おれ、飲んだり食ったりできんだっけ。と思って紅茶を飲んでみると、やっぱりダバダバと液体が流れ出ていってしまった。あ、でもなんか味がわかるな。


「みんな、今日はお疲れ様! ありがとね!」

 フィーナが「かんぱーい」と言って、紅茶をいれたカップを上に掲げる。違うだろそれ。

「それにしてもあの魔獣。一体どこから……」

 ミノさんが身体に合わない小さなカップを口元に運んでいる姿はなんだかかわいい。


「そういえばギルドで聞きました。最近、初級ダンジョンでも謎の事故が起きていると」

 そう言うのはクルスだ。

「行方不明者が続出しているらしいな」

 緊張の解けたゲイルは表情が穏やかで、はっきりと喋れるようになっていた。とげとげしさは噓のように消えている。

「魔石か。かつて魔王が創り出した、魔獣を生み出す石。中央都市のギルドから世界中に冒険者を派遣し、壊してまわったという話だったが……まだ残っていたのだな」

 ミノさんがあちっ、といいながら紅茶をすする。猫舌か。


「そうかもねー。そんで、今後のことなんだけど」

 フィーナがぽりぽりとクッキーを食べ散らかしながらしゃべる。しゃべるたびにクッキーの欠片と唾と紅茶がとぶ。きたねぇ。品性の欠片も感じられねぇ。


「ワタシたちのパーティは今後、北の大ギルドに所属して、実際にクエストに挑戦していきまーす!」

「もともと私たちは北の大ギルド所属なので構いませんが……もう少し段階を踏んでからの方がよいのではないでしょうか」

 クルスの言うことはもっともだ。ってか本当にこいつ元殺し屋なんだろうか。


「大きな実績を作りたいんだよねー。このパーティなら、やれる算段がついたから、どんどん挑戦しようと思って! モンスターのみんなの居住区を拡大して、もっともっと快適に暮らしてもらうためにも! モンスターに人権を! ってね」

「それで、研究費をたんまりいただこうってか」

 おれが言うと、一瞬、フィーナの目が丸くなる。そしてにやーっと笑う。

「それもあるある! そしたらもっとたくさん面白い研究ができるなー!」

 フィーナの目がきらきらとしている。きれいな目だが、その他は汚い。まじで汚いから口元拭いてもらっていいですか。

 さらに、紅茶のカップを持とうとした左手から何かがぽろっと落ちた。フィーナは何事もなかったかのようにそれをポケットに突っ込んだ。お菓子かな。あと、行儀悪いからポッケから手を出してもらってもいいですかね。


「ぼくは【特級冒険者】……ううん、冒険王になりたい!」

 紅茶につかっていたブルーが急に叫んだ。スライムが冒険王って。

「ワタシがあげた冒険王の冒険譚、読んでくれたんだね! えらいね、ブルーは!」

「えへへ!」

 姉妹か、おまえらは。


 ずっとなんか流されて忘れてたけど、そもそもおれだ。おれの存在は何なんだ。記憶もはっきりしないし、なんで動けているのかわかんねーし。そのうち思い出すかなー。まぁ、今考えても仕方ねーか。こいつら見てたらどうでもよくなってきたわー。


「とゆーことで、近いうちにまた招集かけるから、その時はよろしくね! ばーい!」

 フィーナは食べ散らかすだけ散らかして飛ぶように帰っていった。

 これ、誰が片づけるの。ねえ。


「それでは私たちもこれで。いきましょうか、ゲイル」

「ああ、そうしよう。セブン、ミノさん、ブルー、また会おう」

 意外と礼儀正しい青年じゃねーか、ゲイル。

 ってかちょっとは片づけよーぜこれ、クルス。


「我らにあまり偏見をもたぬ人間たちであったな。もっとも、そういった人材を選んできたのだろうが。さて、我はダンジョンの後始末をつけてくるとしよう」

 ミノさんも行ってしまった。おれはどうすれば。

 困っているおれをよそに、ブルーが残り物とか、散らかったものを消化し始めた。助かる! めんどうだから全部溶かしてしまえもう。


「そういやおれ、どこに住めばいいんだろ」

 周囲を見ると家らしきものはある。けれどおれには割り当てられていないと思う。

「うちに来てもいいよ!」

 ブルーが言った。

「おまえ……いいヤツだな」

「えへへ!」

 まぁ、別にそこらで転がっていてもいいんだが、傍からみればただの骨だ。白骨化した死体と思われて片づけられても何も言えんし。


 おれはブルーの言葉に甘えて、家にお邪魔することにしたのであったとさ。

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