家、魔女っ娘、そして夢

「いらっしゃい! ここがぼくの家だよ! えへへ、フィーナ以外のひとがおうち来るの初めてでうれしい!」

 スライムの家なのに、なんだか思ったよりフツーの、人間の住む家って感じだ。

「本棚……本がたくさんあるな」

「うん! フィーナからもらったんだ!」

 見ると、冒険譚……物語モノばかりだ。特に冒険王シリーズが多いな。モンスターの中にもいたなー、冒険王に憧れるやつ。

 なんだか、ちょっとずつ記憶がはっきりとしてきたような、そうでもないような。


「──すごい! これは、私が持っていないシリーズ! どこで手に入れたのですか!?」

「えっと、これもフィーナがくれたんだけど……」

「……誰だあんた!?」

 家の中にいきなり魔女っ娘が現れた!

 黒い三角帽子に黒いローブ。典型的な魔女みたいな恰好してる。

「失礼。転移の座標がズレてしまっていたようです。ここはどこでしょうか。そしてあなたたちはモンスター……ですよね」

「うん! ここはね、中央都市にある、ぼくたちモンスターたちのための居住区だよ! 人間とモンスターが仲良くするための第一歩なんだって!」

「人間とモンスターが共存? 外の世界はずいぶんと変わったようですね。それにしても、転移しただけなのにこの疲労感……世界樹のマナが供給されていないと、ここまで消耗するとは……」

 魔女っ娘は目をしぱしぱとさせている。眠そうだ。


「2階にお客様用のベッドがあるから使っていいよ!」

「……ありがとうございます。申し遅れました。私の名はユーリです」

「ぼくはブルー!」

「おれはセブンだ」

「ブルーさんに、セブンさんですね。すみませんが、明日……中央都市を案内してもらってもよろしいでしょうか。行きたい場所があるんです」

「うん、いいよ!」

 ブルーが即答する。いいのかよ。怪しいだろ、どう見ても。

 転移? 転移って言ってたな。転移魔法ってやつか。アレはかなり高度な魔法だと聞く。それに世界樹っていったな。するとこいつは──ん、今なにか思い出しかけたな。

「それではすみません、泊まらせていただきます。もう限界」

 魔女っ娘ユーリはあくびをしながら、とことこと2階に上がっていった。


「不思議な目してたね! 左目と、右目の色が違った!」

「オッドアイってやつかな。猫とか、たまに見かけるぜ」

「そうなんだ!」

 オッドアイ、猫。こういった知識はわりとすらりと出てくるな。自分に関する記憶だけが抜け落ちている? 

「ぼくたちもお休みしよっか。今日はなんかちょっと疲れちゃった」

 ブルーはそういうと動かなくなった。ただふよふよとしている。たぶん、寝たようだな。ってか……ベッドで寝ないのかよ。


 おれは、どうしよう。眠たくなったりしなさそうだ。

 だからおれは本を読むことにした。何か思い出すきっかけになるかもしれない。

 

 ──本を手に取った瞬間。おれの意識が『飛んだ』。



「まぁた本読んでるのかよ」

「ああ。本はいいぞ。様々な知識が身につくし、現実世界では味わえない新たな世界を疑似体験できる」

「疑似体験? 妄想じゃねーのか。今日の召集の時も、四天王サマの話、聞いてなかったろ」

「バレたか」

 そいつは笑った。顔はもやがかかっているかのようで、はっきりとは見えない。

「……冒険王の子孫、ねえ。そいつが魔王サマを倒す存在になり得るのかねぇ」

 しゃべっているのは、おれか。

「さぁて、どうなるものかな。しかし、こうしてのんびりとした時間を過ごせるのも、あとわずかというわけだ」

「ま、最後までつきあうぜ」

「地獄のお供がお前とは、色気がないな」

「違いねぇ」

 この記憶は……おれの、いやおれたちの最後の戦い前の?



「……〇〇〇〇〇。もしかしたら、敵軍の中に──が、いるかもしれない」

「……そうか。ようやく……」

 込み上げてくるこれは……怒り、憎悪。黒い感情が抑えられない。いや、もう抑える必要はない。すべて──にぶつける。終わらせるんだ。これで、すべてを。



 そんなおれを見て。

 あいつは少し、寂しそうに微笑んでいた。

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