魔 獣
「黒い……リザードマン?」
しかもでかい。ミノさんと同じぐらいにガタイがいいヤツだ。
「こんな種族、みたことがないな。どこから紛れ込んできた」
黒いリザードマンはグルルとうなっている。右手にはこれまたでかい剣、左手には頑丈そうな盾を持っている。ヤバそうな雰囲気だな。
「ねーねー、アナタどこから来たの? お名前は……ぐえ」
ミノさんがフィーナを後ろに引き倒した。その上を火球が飛んでいく。火球はグオンと加速すると、天井にぶつかって大爆発を起こした。
あの威力。ミノさんが動かなかったら、フィーナの上半身は消し飛んでいたかもしれない。
「こいつは危険だ! モンスター種じゃない! 魔石から生み出された『魔獣』だ!」
ミノさんがみんなに向かって下がれと叫んだ。
魔石? 魔石ってなんだ?
魔獣……あー、あれか。魔王サマがその魔力で生み出したモンスターもどきだったっけか。
「魔獣! すごいすごい! 持って帰りたい!」
ブレないやつだな、フィーナ。
「残念ながら、それは無理だ。こいつはここで倒す。でなければ、居住区だけでなく、都市にも危険が及ぶだろう」
ミノさんは手に持っていた巨大な斧を、黒いリザードマンめがけて振り下ろす。
黒いリザードマンはそれを盾で防ぐものの、ミノさんの力に押されて後退する。
「クルス、ゲイル。お前たちはフィーナを連れて逃げろ! ここは我とセブンが引き受けた!」
え。おれも戦うの? 無理だろこんなん。
「ミノさん。あれは、モンスターではないのですね?」
「ああ。見た目だけがモンスター種の、別のモノだ」
「なら、遠慮はいりませんね。私も戦います」
「お、お、俺もやるぞぞぞ!」
クルスと震えるゲイルが前に出た。
「ゲイル! 魔法で攪乱を! 切り込みますっ!」
「応っ!」
突風が吹く。地面の石がリザードマンの顔に飛んでいく。
「ギィィ!?」
リザードマンの目に石が入ったようで、ヤツは目をつぶった。
クルスが跳ぶ。懐から不思議な形のナイフをいくつも取り出し、それを投げた。さらに、短刀でリザードマンの首を突き刺して、元の位置まで後退した。一瞬の出来事だった。
「グルルルル」
リザードマンは首に刺さった短刀を抜き、指でへし折った。
「即効性の……猛毒が塗ってあるんですけどね、アレ」
「アレは生き物の類ではないのやもしれん。我は一度、暴走した魔獣とやりあったことがあるが、首の骨を折っても向かってきた」
「……うへえ」
リザードマンは戸惑うおれたちを見て、邪悪に嗤う。
「いまだ隙あり! フィーナパーンチ!」
ゴスッと音を立てて、黒いリザードマンが後ろの方の壁まで吹き飛んだ。
その胸元にはフィーナの拳の跡がくっきりと残っていた。
「無謀なことしてんじゃねー!」
おれは思わず言った。
「ワタシの鉄拳は全てを砕くのだよ!」
「いいからさがってろー!」
あ、やばい。
黒いリザードマンが壁を蹴った。同時におれはフィーナを突き飛ばした。
リザードマンの体当たりを受けて、おれはバラバラに散るのだった。
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