第20話 限界突破?
とある鑑定士の館。
そのスキル【鑑定眼】により、ニコルの『成長しない』謎が少しだけわかった。
「レベルの【上限】があがった形跡がありますな。何らかの要因をクリアすることで、その上限を突破したのでしょうなぁ」
成長の上限。
それを数値化して表すのであれば、ニコルのレベルの上限はなんと『1』だった。それが今は『5』に引き上げられている。
上限は人によって違う。30のヤツもいれば、80のヤツもいる。大抵のヤツはその上限に達することなく、その人生を終えることになるらしいのだが。
突破できた要因。それはメタル系のモンスターを倒したことにあると推測できる。ニコルが直接倒したわけではないが、倒すきっかけを作ったのはニコルの行動にあった。
オレたち全員揃ってレベルアップしたところを見ると、パーティ全員に何かしらの恩恵があったとみていいだろう。
「しかしステータスに未知の部分が多いですな……」
「オマエの鑑定眼でわからないのか?」
「ふむ。上級スキルを発動すればいけそうですが──ちなみに料金表はこちらになっておりますぞ」
──高い。
「なんだってこんなに高額なんだ。足元見てるわけじゃないよな」
「まさか。ギルドから承認を受けた正規の値段ですぞ。鑑定士なんて職が成り立つにはやはりこれくらい頂きませんと」
「……金さえ積めば、わかるんだな」
「ええ、ええ。もちろん守秘義務がございますから、他には漏らしませんですぞ。その制約を破ったら廃業どころじゃすまなくなりますからな」
外部に情報を漏らしたら命を落とすという物騒な
「ちっ。稼いでまた来るとするか。ありがとよ、じいさん」
「お待ちなされ。いいものがありますぞ」
鑑定士のじいさんはすっと手帳のようなものを机の上に出した。
「本来、ギルドおかかえの鑑定士から支給される『冒険者手帳』。ちょっとしたステータスの動きなら、いちいち鑑定士の世話にならずとも、これで確認できますぞ。まぁ、これはワンランク上のものですがな」
冒険者手帳。
数値化されたステータスを視覚化してくれる、便利なアイテムだ。冒険者のレベルがあがったり、スキルが発現したりすると自動的に記録・更新されるという。
「で、いくらだ」
オレが言うと、じいさんはにやりと笑った。
「話がはやい。これの金額は──」
やっぱりあのじいさん、足元見てるんじゃねぇかな。財布の中身がほぼカラになっちまった。
「キースさん……こんなに高価なもの、よかったんですか? ボクだけじゃなくてブルーの分まで……」
「金のことなら気にするな」
あのモンスターの居住区とやらで世話になれる以上は、衣食住の心配はない。
「きゅいい」
「うおっ。目覚めたのかこいつ。まだ入ってろ」
オレはニコルのリュックから顔を出したメタルラビィを押し戻した。
「こいつもモンスター居住区に連れていくか」
「それがいーよ! そうしよー!」
手帳を持って喜んでいるブルーが言った。スライムがしゃべると、周りを歩いているヤツらがぎょっとこちらを見てくる。しかし基本無害なスライムだからか、あんまり気にされていない。まぁ、モンスターを連れた冒険者は過去にも何人かいたらしいからな。
「……」
「どうした、ニコル」
「ボク、キースさんにもらってばかりで何も返してあげられない……」
「別にオマエに見返りは求めるつもりはねぇよ。それに、救われているのはむしろオレだ」
「え?」
オレはニコルの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「あのダンジョンでもそうだ。このメタルラビィをオマエが治療してやったから、こいつはオレたちを助けに来てくれたんだぜ。オマエはオレの命の恩人なんだ」
それだけじゃないけどな。オレはニコルと出会わなければ、きっと……。
「ま、それでもどうしても何か返したいっていうなら、これから先もオレと冒険してくれりゃいい。頼むぜ、相棒」
「相棒……ボクなんかがキースさんの……ううん、はい! がんばります! これからもよろしくおねがいします!」
「ぼくもいるよ!」
「はは。オマエもよろしくな、ブルー」
スライムは形を変えてガッツポーズをとって見せた。
──ぞくり。
背筋が、凍る。なんだこの感覚は。
異様な雰囲気に振り返る。
「キースさん?」
「……いや、なんでもない。とりあえず居住区に戻るとしよう」
ヤバい感覚はほんの一瞬だけだったが、決して気のせいではなかった。
すぐ近くに、何かが? しかし、行き交う人々に異変はない。都市の建物が崩れたり、そういう事故も起きていなさそうだ。
オレの見えない何かか、それとも何かが起こる予兆なのか。見渡しても、何も見えなかった。
何かひっかかる。
しかし、その正体はこの時のオレにはわからなかった。
わかるはずも……なかったんだ。
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