第52話 プレゼントだよ!

「いやー。見事な連携だったねー。参った参ったー。しかしいいデータがとれたなー。次の研究にいかそっと! あ、そだそだ。隠しボスを倒したちみたちには、ワタシから素晴らしいプレゼントをあげよー!」

「おっ? 素晴らしいプレゼント? ずいぶん太っ腹じゃねーか」

「へへー。そんじゃまずセブンから。ほい」

 フィーナはどこからともなく白い袋を持ってきて、中からそれを取り出した。


「おお? 剣か。でももういらねーぞ」

「そんなこと言わずにー。その剣、たぶんセブンが入ってたダンジョンの土から見つかったんだよ。折れてたんだけど、どうにか修復できたんだ」

 これ、元々のおれの剣じゃねーのかな。まぁ、いいか。おれは剣を受け取った。

「む──こいつぁ、魔剣だな」

「そうそう! それを持つと生気が吸われるんだ!」

「とんでもねぇもの渡すんじゃねーよ……ったく。しかしなるほどな。たぶん死んでいるおれが持っても吸い取る生気がねぇってわけか」

「うん。まー、魔剣の力はあんまり引き出せないだろーけど、斬れ味抜群だよ! 野菜もお肉もスパスパ斬れる」

「魔剣で野菜とかは斬らねーよフツウ。ま、ありがたくもらっておくぜ」


「そんじゃ次は、レオンちゃん! はい!」

「むん……えほん? おれ、まだあんまり字、読めない」

 レオンがあからさまにしょぼーんとしてしまった。

「ちっちっち。アレンちんに読んでもらうのだよ! 膝に乗せてもらって、読んでもらうんだ! いーなー!」

「それは……すごく、いい! とてもいい! おれ、この本読んでもらう!」

 そりゃなによりのご褒美だな。いや、アレンにプレゼント渡すんじゃなかったのかよおまえ。


「次は、ブルーちょん! ほい!」

「わぁ! プリンだ!」

「前から食べたいって言ってたよね!」

「うん、ありがとー!」

 いいんか、そんなんで。いやおいしそうだけれども。

「おれもほしい」

 と思わず言ってしまった。

「じゃあ、みんなにもあげるー」

 いいのかよ。


「うそうそ、プリンはおまけおまけ。ホントはこっちね」

「木の枝? 杖?」

「これは妖精の国にある【妖精王】の住む大樹の枝を加工してつくられた杖なのだよ! 完全にランダムだけど、魔法が召喚できるんだ!」

「わぁい! これでぼくも魔法が使える!」

 激レアアイテムじゃねーか……。どっから手に入れてくるんだそんなもん。


「最後はユーリっち。ユーリっちには……」

「本」

「え?」

「本以外、いらない」

 なんてそっけない。確かに、本以外興味ねぇしな、こいつ。

「そっかー。でも、気に入ると思うんだよねー、これ」

「これは……万年筆と、インク……?」

「その名も無限インク! これさえあれば、いくらでも文字が書けるよ!」

「文字を……書く?」

「物語とか、日記とか、論文とか、色々書いたら面白いんじゃないかなって思って! 本好きでしょ、ユーリっち。読むだけじゃなくて、書く! 想像力は無限大! ユーリっちの思い浮かべるまま、その想像の世界を形にしちゃおーよ!」

「──考えも、考えもしなかった。私の……想像した物語を、本に! 素晴らしいです!」


 思いのほかちゃんとしたプレゼントが出てきて驚いた。すげーふざけているように見えて色々と考えているんだな、相変わらず。いやほんと、何考えているかわからないようにしか見えないんだけどなぁ。おれたちとは全然違う世界を見ているようだ。


「おっと、そろそろもどらなきゃ。そんじゃみんな、まったねー!」

 しゅん、とフィーナの姿が消えた。


「空間転移。この場所と何処かを【ポータル】で結んでいたのですね」

「……瞬間移動魔法か」

 なんだ。ずっとここにいたわけじゃないのか。やっぱ道化だわあいつ。


 そんなこんなで、おれたちこの奇妙なパーティはダンジョンの攻略に成功した。

 アレンが戻ってくるまでの間、おれたちはさらに冒険を重ねるのであった。


 そして──。





「アレン、おかえりー!」

 居住区に帰ってきたアレンに、レオンが飛びついた。顔をぺろぺろしている。

 よかった。これでしばらくはおれの骨がかじられずにすむ。よだれでべとべとのおれの日々よ、さらばだ。

 

 それにしてもアレン。ほんの少しドラゴンバスターズ……だっけか。そこで何があったのかはわからねーけど、ちと雰囲気が変わったか?

「ただいま、レオン! 元気してた?」

「さびしかった! でも、みんなで冒険した! 楽しかった!」

「冒険……?」

「うん、みんなで冒険! アレン、これ読んでー!」

「あ、絵本? いいよ。その前に、みんなにお土産あげなきゃね」

「お土産! やったー!」

 ま、無事に帰ってきてよかったわ。なんかこう、あいつがいるのといないのとじゃ空気が違うな。

 なにより居住区のモンスターたちの表情が違う。アレンはモテモテだからな。人間じゃないヤツらに。はは、早速エクレールの雷が落ちてやがる。


「アレンもどってきてよかったねー。あれ、セブン、腕……」

 居住区ではおれは鎧を着ていない。おれのむきだしの骨の右腕を、ブルーは見ている。

「ん? あれ……6?」

 右腕に刻まれた謎の数字『7』が『6』に変わっている。

 なんだこれ。いつの間に6になった。これ、最終的に『0』になったらどうなるんだ。爆発すんのかな。

 身体に異変はない。むしろ肩が軽いくらいだ。骨だけども。

 フィーナに相談……はやめておこう。面倒なことになりかねん。


「ん? ブルー、どうした。ぶるぶるして。寒いのか」

 そんなわけないか。

「え? ぼく、震えてた? なんともないよー」

「そうか。なら、いい」


 この時のおれたちはまだ気づいていなかった。


 平穏の裏で、ある事態が進行しつつあったことに、まだ、誰も──。


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