第11章 魔獣討伐

第53話 ゴールド

 久々に戻ってきた、僕の故郷。ルートの町。

 あちこちの家が壊れ、傷ついた人たちは途方に暮れて座り込んでいる。

「おう、アレン。来てくれたか」

 僕たちを出迎えたゴッツさんの表情は険しい。

 中央都市から派遣された魔法使いたちも到着し、傷ついた人々を癒していく。

 ドワーフの長ロゥグさんの娘、ユズユさんも来てくれた。他のドワーフたちも町の復興を手伝ってくれるらしい。頼もしい限りだ。


「少し見ない間に、顔つきが変わったな。再会を喜ぶのは後回しだ。早速、ギルドまで来てくれ」

「はい」

 僕たちはギルドまで移動する。



 ──ルートの町の近く。初級冒険者用ダンジョン。

 僕とエクレール、そしてアイリスが出会ったあのダンジョンで、さらなる異変が起きたという。


 黒いモンスター──魔物の大量出現。

 あの時の魔石は消えたのではなく、地中深くに潜っていた可能性が高いとのことだった。その魔石が魔獣を生み出し、ついにはダンジョンから外に現れたというのだ。


 魔獣たちはダンジョンの近くにあったルートの町へと侵攻。ゴッツさんたちが討伐するも、大きな被害が出てしまった。

 魔物たちは次々と現れ、対処しきれなくなったゴッツさんは、中央都市のギルドに救援を要請した。

 それぞれのギルドから【上級冒険者】たちが派遣された。今、北の大ギルドには上級冒険者が所属していないため、僕とユーリが派遣されることになった。

 またレオンが泣いていたけれど、ここにレオンを連れてきてしまったら、余計な混乱が生じかねない。ゲイルさんとクルスさんは他のクエストを受注しているため、彼らも連れてくることはできなかった。


「アレンさん。あのエルフ……アレンさんを見ていますが、知り合いですか?」

 ユーリが、ギルドの建物に入ろうとした僕の服をくいくいと引っ張った。エルフに知り合いなんて……いや、心当たりがあった。あれは──。


「あーっ! セレナちゃん!」

 僕より先に、エクレールがその名を呼んだ。

「アレン、エクレール。久しぶり……でもないな」

「セレナさんも、来てくれたんですね!」

 セレナさんは少しだけ笑った。

「後で副団長も、リックを連れてくる。遅れて、他のドラゴンバスターズのメンバーも合流するとのことだ」

 それは頼もしい。彼らの力があれば、この事態はすぐに収拾できるだろう。


 それにしても。最初に会った頃のエレナさんからは想像もできないくらいに、表情が柔らかい。

「ところでアレン。なんでそんなに離れている」

「あ、いや。その、くさいって言ってたから、におうといけないと思って」

「あ……あれは……すまない。もともと人間のにおいは好きではなくて……」

 エルフはにおいに敏感らしい。なので、第一部隊の人たちはみんな、隊長であるセレナさんの機嫌を損ねないように、特殊な香水をつけているのだとか。それ、最初に知りたかったなあ。

「本当に、すまない。しかし、あなたのにおいは……よく嗅ぐと、それほど嫌いじゃない」

「よ、よく嗅がなくて、大丈夫ですから……。気をつかわないでください」

「そ、そういうわけでは」

 ちょっと気まずい空気が流れる。加齢臭、なんとかしなきゃなあ。


「あー! おじさん冒険者だ!」

 淡いピンクの髪の……確か、リィンさんだったっけ。あの時、酒場で出会った。

 ということは……。


「またこの町で一緒に冒険することになるなんてね……アレン」

「アイリス!」

 やはり。南の大ギルドから派遣されてきたのは、アイリスたちのパーティだった。


「あらあら。そんな下級雑魚冒険者と話すだけ時間の無駄ですわよ」

 この人もあの時酒場にいたなぁ。耳が少しとがった、エルフっぽい人。


「──ほう。ハーフエルフの分際で、ずいぶんと偉くなったものだな。ルーシー」

「……え? は、セレナ様!? ど、どうしてここに……すみません、すみません!」

 ルーシーと呼ばれたハーフエルフは、細い目をカッと見開き、その場で跪いた。

「わが友を侮辱するとは、万死に値する。その命をもって償え。今すぐ」

「はい! 死にます! 今すぐ死にます!」

「ちょっ……や、やめてください!」

「しかしアレン……」

「僕が弱いのは事実です。まだまだなんです。僕は大丈夫ですから……」

「アレン、あなたは弱くない。このわたしを救ってくれたのだ。誇りをもってほしい」

 そう言われても。セレナさんを救ったという実感が僕にはなかった。そう言ってくれるのはうれしいけれど、本来ならこうしてセレナさんと肩を並べられるなんてありえないことだ。

 ルーシーさんはしゅんとして、アイリスの後ろに隠れた。


「ほほう。貴殿があの【魔弾の射手】、高貴なるハイエルフの姫。一度手合わせねがいたいと思っていたござるよ。ここで死合うか」

 そう言って笑うのは、確か【サムライ】のアオイさんだったっけ。

「ほう、東国のサムライか。いいだろう」

「よくない。いい加減にして」

 アイリスが二人の間に入ってため息をついた。


 その時だった。

「はっはーん! またこの美しいぼくのために争っている女性たちだね! やめるんだ! ぼくの愛はみんなに等しく与えられる! さあおいで子猫ちゃんたち! みんなまとめて愛でてあげよう!」

 ま、まぶしい。曇り空の下なのになんだこのまばゆい光は。

 激しく光っている人がいる。この光は──金。ゴールドだ! 金の鎧を身にまとった騎士が、光の中で笑っていた。


 ん? 光?

 も、もしやこの人が。アイリスの探しているという……?

 僕はアイリスを見た。なんかものすごい嫌そうな顔してる。


「おや! キミがアレンくんだね! 最近、活躍がめざましいと聞いたよ! ぼくに憧れているんだろう? はっはー! 照れなくていい! でも、ぼくの高みにくるにはあと100年はかかるだろうけどね」

「……ひっこんでくれるかしら、ゴルドさん」

「おお、アイリス。白銀の輝き! ぼくの愛! 少しの間ひとりにしてごめんよ。さぁ、あつい抱擁をあげよう!」


「あ、やばい」

 リィンさんが言った時にはもう遅かった。


「ほう、これが【白銀の闘鬼】か。なかなかの力だ」

 セレナさんとユーリが魔法結界を張ってくれなかったら巻き込まれていた。

 地面は大きく抉れて、その中心に目を吊り上げたアイリスが立っている。


 金色のゴルドさんは、遠くの地面に頭をつっこんでじたばたしていた。彼以外のみんなは、それぞれが防御・回避していて怪我一つなかった。僕は反応できなかったのに……すごいなぁ。こういった状況に慣れているような感じはあったけれど。


「戯れはおしまい。いくわよ」

「は、はい」

 僕たちはアイリスさんに続き、ギルドの建物へと入っていった。


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