第54話 故郷を守れ!

「現状を説明する。マルグリット」

「はい、お父さん」

 ゴッツさんは、娘のマルグリットさんから地図を受け取り、テーブルの上に広げた。

 親子なのに、似ているトコロが全然ないふたりだなぁ。いつも思うことだけれど。


「この赤い丸が、魔獣が現れた場所だ」

 近くの町や村が赤い丸で囲まれている。その中心にはあのダンジョンがあった。

「各ギルドの冒険者たちが魔獣を討伐してくれているものの、いたちごっこだ。やはり根本を叩かねばならない」

「それをわたしたちがやるってわけね」

 アイリスさんの言葉にゴッツさんは頷いた。

「東の大ギルドの冒険者たちも今、遠征先から、直接ダンジョンへと向かってくれている。魔石は、ダンジョンの深度にして15階層に相当する箇所に存在しているようだ」

 ゴッツさんは別の地図を広げた。それはあのダンジョンの簡易的な地図だった。

 以前、僕たちが散々な目に遭ったあの場所からさらに下の階層に続く階段ができているみたいだ。


「……魔石が、ダンジョンを拡張したのね」

 アイリスさんが小さく言った。

「アレン。お前さんに貸していたオレの剣、持ってきているな」

「はい」

 僕はゴッツさんに剣を渡した。やっぱりすごく重たいけれど、最近ではどうにかセブンに打ち返せるまでは筋力がついてきていた。


「アレン。お前さんたち北の大ギルドの冒険者……といってもふたりではあるが、ドラゴンバスターズが到着するまでこの町を守ってくれ」

「え?」

「もちろん、この町の冒険者たちも残し、援護に回す。お前さんは皆と連携を取り、少しでもこの町に被害が及ばないように努めてくれ。ドラゴンバスターズが到着次第、ダンジョンへと案内するんだ。重要な役割だが、できるな?」

 それは確かに重要な役割だ。ゴッツさんは自分の代わりに、僕にこの町を守れと言っているのだから。


「……はい! やれます。任せてください」

「やはり、変わったな。これで安心して、オレたちはダンジョンに専念できる。それでは皆にアイテムを支給する。すぐに出発するぞ!」

 こうして魔石破壊作戦が決行された。


 なんとしてでもこの町を、故郷を守るんだ。僕が。



「アレンさん。この町にも本はありますか?」

 唐突にユーリがそんなことを聞いた。

「うん。小さいけれど、本屋もあるよ。あと、幻想小説作家フレッドさんの故郷でもあって、新刊は優先的にこの町に回ってくるんだ」

「……中央都市でも手に入りにくいというあの! それは何としてもこの町を守らねばなりませんね。奥の手を使ってでも……」

 ユーリの身体からゆらゆらと、抑えきれないほどの強いマナが放たれているのがわかる。


「こほん。しかし、今回の配置は適しているかもしれません。魔石があるダンジョンでは、魔素が生じます。深度が深ければ深いほど、マナが届きにくい。雷の魔法を得意とするアレンさんですが、魔素により地上と切り放たれた場所ではその力が十分に引き出せないでしょう」

「そ……うか」

 ゴッツさんはそれを見越していたのか。雷の魔法が使えない僕はただの初級冒険者。ならば、力が発揮できる場所に配置するのはもっともなことだ。


「アレンさん。あたしも戦います!」

「ありがとうございます! ……ってマルグリットさん!?」

 腕に鋼でできた手甲をつけ、格闘家みたいな恰好をしたマルグリットさんがそこにいた。

 ギルドの受付嬢をやる以前は名のある格闘家として、色々なところの武術大会で優勝したという噂は聞いたことがある。

「すっかり身体なまってしまっていますけど、少しはお役に立てると思います」

「……わかりました。でも、無理しないでくださいね」

「……ふふふっ。アレンさんに心配されちゃった。いつもあたしが心配してばかりだったのに」



「──きたぞ! 魔獣だ! 北門を守れ!」



 声が飛んできた。いかなければ。

 僕たちは互いを顔を見合わせて、頷き、そして走り出した。


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