冒険者はじめました

第５５話 ルートの町 防衛戦

　黒いゴブリンのような魔獣が大勢いた。

　皆は魔法で、剣で、槍で、あらゆる攻撃で黒いゴブリンを倒していく。しかし、その勢いは止まらない。

　僕は皆を巻き込まないように、雷の魔法で援護する。ユーリも魔法で黒いゴブリンたちを薙ぎ払っていく。

「……アレンさん、すごい」

　マルグリットさんが目を丸くして驚いていた。僕が魔法を使えるようになるなんて、思いもしなかったことだろう。僕自身もそうだったからなぁ……。

「マルグリットさん、僕たちが撃ち漏らしたモンスターたちをお願いします」

「はい！」

　黒いゴブリンは腕を斬られようが、身体を貫かれようが怯まない。

「あれは頭を砕いてもしばらくは動くでしょう。魔獣には”核”が存在します。それを的確に破壊できればいいのですが、難しいでしょう。アレンさんと私の魔法で、一撃で吹き飛ばすのが手っ取り早いでしょう」

　ユーリの言葉通りだった。黒いゴブリンは頭を砕かれようとも、しぶとく食らいついてくる。僕たちは皆を援護しつつ、包囲を抜けてきた黒いゴブリンに対して強い魔法を放った。

「今度は南だ！　南門にオークみたいなやつがでたぞ！」

「アレンさん、行ってください。ここは私で対処できそうですから！」

　ユーリがそう言ってくれたので、僕とマルグリットさんは南門へと向かった。

　黒いオークは不気味に笑って、ずしずしと歩いている。

　南門は突破される寸前だった。ここに割いている戦力は北門より多いはずなのに。

　僕は雷の短剣を握りしめた。

　──来る。

　僕はこちらめがけて走ってくる黒いオークたちを一気に薙ぎ払う。

　走る。僕は雷となって奔る。

　雷の短剣で斬りつけると、黒いオークは燃えて倒れた。それでも黒いオークはしばらくの間動いていた。

「あたしも負けていられないわね！　閃光烈牙！」

　マルグリットさんが会心の一撃を放つ。

　黒いオークの首が何回転もしてぶちりと千切れる。あれが人体に向けて放たれたら……そう考えると恐ろしい。

「もう！　身体が全然動かない！　鍛え直さなきゃ！」

　そう言って風のように走るマルグリットさんは、黒いオークを人形のように投げ飛ばしている。

「あの人、アイリス並みにパワーあるかもしんない」

　エクレールがそんなことを言った。確かに同じような迫力があるなあ。

　マルグリットさん一人でもなんとかなりそうな雰囲気だけれど、黒いモンスターはやはり怯まない。

「アレン！　西門が壊滅寸前だ！　助けてくれ！」

　町の冒険者が、傷だらけで僕のところにやってきた。

　黒いオークたちはまだまだその勢いを弱めていない。このままじゃ……。

「やばいヤツが現れたぞ！　なんだあの魔獣は……絶望的だ」

「黒い……犬の獣人型の魔獣を連れた、黒騎士だと……なんておそろしい！」

　ここにきて新手。しかも手ごわそうだ。

　あれ？　犬の獣人型モンスターと黒騎士って何かひっかかるなぁ。

「お、いたいた！　アレン、きちゃった☆」

「がう！　アレン、おれ、会いたかった！　だから来た！」

　やっぱり……セブンとレオンだった。

「アレンさん……あのふたり？」

「はい。僕の仲間です！」

　セブンとレオンは次々と黒いオークを倒していく。

　セブンの持っている新しい剣がすごい。黒いオークがまるで紙のように斬れていく。

　レオンもすごい。回転で威力が増した蹴りは、黒いオークの頭を一撃でぐしゃりと潰し、次々と霧散させていく。

「いやー。レオンがどうしても来るって聞かなくてよー。仕方なくな。獣人奴隷を連れた黒騎士サマって設定にしときゃ大丈夫かなって思って」

「いや、今まさに魔獣の一種と間違われてたよ……でも、来てくれて、助かった」

「みてーだな。まさかこんなことになってるとはな。なんか、西門ってところがやべーんだろ。行ってこい」

「やだ！　アレンと離れるのやだ！」

「レオン。ここで活躍したら、アレン、すげーほめてくれるだろーなー。めっちゃなでてくれるし、ご褒美もくれるかもしれねーぞ」

「……ホント！？　おれ、がんばる！　すごいがんばる！」

　セブンはこうやって、僕をダシというかエサにレオンを制御しているらしい。あとユーリにも何か言ってたらしく、この前大量の本を買わされた。

　僕がセブンをじっと見ると、それに気づいた彼は「ごめんな」といったポーズを取った。けどたぶん、全然悪いと思ってないなこれ。

「アレンさん、行きましょう！」

　マルグリットさんと僕は西門に急いだ。

　黒いオーガ。普通のオーガよりも一回り大きい。魔法を受けてもモノともしていない。傷もすぐに回復してしまうようだ。

　マルグリットさんがスキルで、技で、オーガをなぎ倒し、僕が雷の魔法でとどめをさす。

　──数が減らない。みんな疲弊していく。このままじゃ、押し切られる。

「アレンちゃん、いい雲がきてる。あれなら直接、雷ぶつけられるかも」

　僕はエクレールが指さす方をみた。雷雲が広がってきている。

「──みんな、後退して！」

　僕の声にみんなが反応し、後ろまで下がった。

「いっくよ～！　ばりばりばりばりー！」

　エクレールと僕が力を放つ。雷雲からいくつもの雷が放たれ、黒いオーガたちを焼いていく。黒いオーガたちは意に介さず、のしのしと向かってくる。それを僕は次々と迎撃していく。

　……これだけの魔獣たちがやってくるなんて。ダンジョンに行ったみんなは大丈夫だろうか。

「うわ……アレンちゃん、あれ！」

「……っ！」

　黒雲から何かが降りてくる。

　それは、黒い飛竜──ワイバーンだった。

　雷に打たれているのに効いていない。雷に耐性があるのか……。

　空からの攻撃されては、町が守り切れない。

　どうする……何か、打つ手は……。

　その時だった。

　ワイバーンが爆発し、次々と地面に落ちていく。

　ワイバーンよりもずっと巨大なあれは──飛翔船！　ということは。

「アレンさーーーーーーーーーーーーーん！」

　まだものすごく遠いところにいるのに、シータさんの大きな声がまるで雷のように響き渡ってくるのだった。