第56話 救出へ
「アレンさん、アレンさんアレンさーーーー……うわぎゃ」
僕に向かって跳んで来ようとしたシータさんを、クライムさんがぽいっと投げた。
「拘束魔法」
「むがーっ! むががが!」
シータさんは鎖のようなもので身体を縛られて、さらに口を塞がれた。
「遅くなりました。他の部隊も近隣の町や村を手助けに行っています。ここまでの魔獣の発生はいつぶりですかね。早急に鎮静化させなければ」
まさかクライムさんまで来てくれるなんて。とても心強い。
「この町を囲んでいた魔物も、アレンさんたちの活躍により激減しているようです。あとはシータさんたちに任せ、私たちは根源のところへ向かいましょう」
「えーーーーーー! せっかくアレンさんと会えたのにーーーっ!」
「……拘束魔法を力尽くで破るの、やめてもらえますか……シータさん」
「アレンさん、色々な人にモテるんですね」
マルグリットさんが何故か、少しむくれて言った。モテている……のかなあ。なんかそういうのとは違う気がするけれど。
とにかく、ドラゴンバスターズの到着で状況は一気に好転するだろう。クライムさんたちとマルグリットさんを連れて、僕はあのダンジョンへと向かうのだった。
入り口には負傷した冒険者たちが、医療魔法使いたちの治癒を受けていた。そこにはゴッツさんの姿もあった。
「お父さん! 大丈夫!?」
「マルグリットか。オレの傷は大したことない。大丈夫だ。アレン……ドラゴンバスターズが到着したんだな。これで一安心だな」
大したことない……そういうゴッツさんの背中は、大きな爪で抉られたような跡があった。回復魔法でもなかなか治らないようだった。
「ゴッツさん、これを」
「なんだこれは……。ム、回復薬か」
「はい。傷の回復だけでなく、回復効力を高めてくれます」
「ありがたい。いただくぞ」
ゴッツさんは一気に液体を飲み干した。
「ム……これはすごい効き目だな。痛みが消えた」
「他の皆さんの分もあります。それにしても……ゴッツさんまで怪我をするなんて」
「いやあ、オレはもう現役じゃないからな。それを改めて思い知ったぞ。前に出すぎた」
「アイリスさんたちは……」
「あいつら、やはり他のやつらとはレベルが違うな。あの勢いならそろそろ魔石のところにたどり着くだろう」
よかった。それなら、もうすぐこの事態も収束するに違いない。
「……ゴッツ……さん」
「お、おい……どうしたお前さん!」
入り口から、血まみれの冒険者が出てきた。倒れるその人を、ゴッツさんが受け止める。
「回復魔法を急げ! はやく!」
「……先行した部隊が……ほぼ、壊滅しました」
「……なんだって!?」
「……アイリスさんのパーティを除き、みんなやられちまいました。おれたちを逃がすために、あの人たちは……魔物を食い止めてくれました……。その後は、どうなったか……わかりません」
「なんということだ……」
「ここは、バケモノの巣窟です……皆も……ここから避難を」
ゴッツさんの腕の中で、その人は意識を失った。
「副団長。隊員を集めてきます。総力をもって魔獣を殲滅しましょう」
騎士の装いのリックさんが言うと、クライムさんは頷いた。そして、いつものように左手の中指で丸眼鏡の位置を整える。
「中央都市に援軍を要請します。その間、我々はこのダンジョンより出てくる魔獣を討伐。被害がこれ以上広がることがないように専念します」
「……アイリスさんたちは、大丈夫でしょうか」
「ウチのセレナさんもいるならば大丈夫でしょう」
「──いえ。危険が迫っています」
そこに現れたのはユーリだった。右眼の赤さが、色鮮やかに、そして際立って見えた。
「邪悪なマナが溢れ出ようとしています。おそらく、魔石です。小さなマナたちがいくつも喰らわれています。比較的大きなマナも、弱まりつつあるようです」
エクレールたちが、危ない?
「魔石はこの地で力を蓄えたのでしょう。これが地上に解き放たれたら、大きな災いとなるでしょう。ここで止めなければ……」
「アイリスたちは……どうなるの?」
「……自力で外まで逃げてくれればよいのですが……」
僕が踏み出そうとするのを、クライムさんが止めた。
「私は貴方の力を認めています。しかし、この状況は貴方一人ではどうにもなりませんよ」
「……でも、行かなきゃ。僕は、みんなを助けたい」
クライムさんはじっと僕を見た後で、諦めたかのように笑う。
「ええ、わかっていました。貴方ならそう言うと思いました。では、せめてこれを」
クライムさんが腕輪を差し出した。その中央には綺麗な石がはめ込まれている。
「邪気払いの腕輪です。魔素を払う効果があります。役に立つでしょう」
「ありがとうございます!」
腕輪を受け取った僕は、ダンジョンへと足を踏み入れる。
「待ってアレンさん! 無茶よ……そんな……」
「そうだ、アレン。お前さん一人では無茶だ。中の連中には悪いが、ヤツらも覚悟しているだろう。冷たいようだが、ここで援軍を待ち……」
「マルグリットさん。ゴッツさん。僕の身になにかあったら、家族のことを……お願いします」
「アレンさん、だめっ!」
僕は振り返らずに、走り出した。
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