第132話 女神と元女神
ソフィは中央都市の北側にある神殿へとやってきていた。
神殿の奥にある女神像の前で両膝をつき、そして短刀で自分の手のひらを切った。血が床に滴り落ちる。
ソフィは両手を胸の前で組み、祈りを捧げた。
『久しぶりですね、ソフィ』
「うむ……久しぶりじゃな──ウルド」
『あんまり血を流さない方がいいですよ。手短に』
ソフィの前に、ぼんやりとした光が揺らめいていた。声はそこから発せられている。
「聖杯が顕現したという。そちらの封印は解かれておらんじゃろうな」
『当たり前です。お尻たたきの刑はもうこりごりです。ちなみに新たに似たようなモノも創ってないから安心してください』
「……それでは一体」
ウルドは地上で何が起きているのか把握していた。そしてその正体も。
『【災厄】のひとつ。マガツボシと呼ばれているものです。恐るべき怨念です。あなたの子たちはすでにそれを知り、何とかしようと動いていますよ』
「……なんと」
災厄は人の手に負えるものではない。アオイの足があるとはいえ、今から止めにいって間に合うだろうか。やれることは何も──いや、ある。ひとつだけ、できることがある。ならば急いで向かわなければならない。
『そろそろ血を止めないといけないですよ。今のあなたの身体ではものすごい負担でしょう』
「このくらいなんともないのじゃよ。最後にひとつだけ。──【夜】の封印は、解けておらぬであろうな」
一瞬、間があった。
『封印は厳重です。今後も解けることはないでしょう』
「そうか。ならば、よい。ありがとうの、ウルド。久しぶりに会えてうれしかったぞ」
『わたくしもです。ああ、そうそう。ひと月後、そちらにエリスが降りるそうです。あなたと話をしたがっていますよ』
「そうか。もう喧嘩相手になってやれぬがの」
『ふふふ。それではソフィ、またいつか』
ぼんやりとした光は消えていった。
──気のせいだといいのだが。
ソフィは不安を覚えつつ、神殿を後にするのであった。
どくん。どくん。音が聞こえてきた。
黒衣の男は足を止める。
薄闇の中、何かがそこにある。
男は雷の魔法で周囲に明かりを灯した。
「これが──聖杯?」
闇の中、不気味に浮かぶのは巨大な黒い“心臓”。太い血管のようなものが、岩壁に、地面に根付いている。心臓の中央がべりべりと裂け、巨大な目が現れる。
『ネガイ……叶エル。力……与エル』
くぐもった低い声が響き渡った。
「願い……俺の、俺の願いは……っ!」
彼はその願いを──
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