第133話 雷 VS 雷

 黒衣の男が願いを口にするのを、雷の轟音が妨げた。


「駄目です! それは、聖杯なんかじゃない! 願いは叶わない!」

 アレンたちが、黒衣の男の前に立った。

「邪魔を……するな!」

 黒衣の男が短剣を抜く。雷の魔法が放たれる。それをアレンが、同じく雷の魔法で弾いた。


「──まさか……それも、雷の短剣!?」

「……雷獣の爪や牙はひとつではない。雷の短剣のようなものが複数あっても不思議ではないだろう」

 その男の声を聞いて、ジャンがはっとした。

「おめぇ……ルシードか!」


 ルシード?

 聞き覚えのない名に、アレンたちは戸惑った。

 黒衣の男は、深くかぶっていたフードを下した。

 黒い髪の若い男性だった。その瞳は冷たい色を放っている。

「久しぶりだな、ジャン」

「まぁたおめーの知り合いかよ、ジャン! いい加減にしろ!」

「うるせー! オレだって驚いてんだよ! ってかおめぇも大概じゃねーかよ」


 ルシー。彼はジャンがトレジャーハンター時代の友人だった。

 宝を見つける嗅覚がまったくないジャンとは違い、ルシードはトレジャーハンターとしての才覚があった。ある時、ダンジョンで大きなトラブルに遭い、命を落としたと聞いていた。考古学者の恋人と一緒に。


「生きていたとはな。それにしても、どこに姿を消していたんだ」

「各地を旅し……ずっと、探していた。聖杯を」

 願いを叶える伝説のアイテムを。失われたものを、取り戻すために。

「……そうか。おめぇ、恋人を生き返らせるつもりだな!」

「その通りだ。そのためなら俺は悪魔にだってなる。邪魔をするならお前たちを排除する」

「おいおい、冷静になれよルシード。アレを見ろよ。あんな気持ちわりーモンが願いを叶えてくれるアイテムに見えんのか? ぜってーやべーだろあんなもの!」

『ネガイ……叶エル』

「うるせー黙ってろバケモノ!」

 禍々しい気配が周囲に満ちていく。

 カタカタと、骨のドラゴンたちも集まってきていた。


『命。捧ゲロ』

「──こいつらの命を捧げればいいんだな」

 ルシードは雷の短剣を掲げる。目が、正気のそれではない。

「ありゃ、でけー邪眼だな。【魅了】にやられたか!」

 それとも幻術の類か。いずれにしてもアレは邪悪そのものだった。


「ジャン! このルシードってヤツはおれとアレンが抑える! 破魔の槍で、あの気持ち悪いデカブツを貫け!」

「わかった! 頼むぜ!」

「させるか!」

 雷がセブンを焼く。しかし。

「しびれるねえ。でも、慣れてるんだよなぁ、エクレールで」

 セブンが魔剣を振り降ろす。短剣で防御され、再び電撃。

「いまだ、アレン!」

 アレンが加速し、ルシードの懐に潜り込む。至近距離での一撃。ルシードは後方に吹き飛ばされた。

「……同じ雷の魔法でも、あんたの力の方が上のようだな」

「へへーん! 雷の精霊であるアタシがついてるんだから、あなたに勝ち目はないよ!」

 エクレールがえっへんと胸を張る。


「ならば──血界」

「うわっ! なにしてんのあの人!」

 ルシードは短剣で自分の左腕を貫いた。地面に流れた血が、むくむくと盛り上がり、そして弾ける。

 血の刃を、アレンは雷の魔法で弾こうとした。しかし、血の刃は魔法を無効化して飛んでくる。

「【英霊の盾】!」

「あ、ありがとうセブン」

「どういたしまして!」

 セブンのスキルが、血の刃を防いだ。

 地面に落ちた血が集まり、形を変える。

「血の魔法かー。吸血鬼がよく使うやつだな。人間が使っちゃやべーやつだろそれ」

「この肉体のあらゆるを力に代えてでも、俺は成し遂げる」

「アレン。やつの血は魔法を無効化する。おれが隙をつくるから、肉体強化して突っ込め」


 この人を止めるには意識を奪うしかない。アレンとセブンは一気に畳みかけた。

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