第33話 ソフィとフレーシア
フレーシアは土下座をしているソフィの後頭部を冷たい目で見下す。
「本当に無様ですわね。ソフィ、あなた元女神としてのプライドはないのかしら」
「そんなプライドなど、ない」
「……ふん。落ちたモノですわね。女神のままでいれば、こんなにみじめな想いをせずにすんだのですわ」
「……わしは、自分をみじめだと思ったことなどない。こうして人間の身になることで、酸いも甘いも知った。どんなことであれ、わしは幸福を感じておるぞ」
フレーシアは怒りの表情となり、ソフィの頭を踏みつけた。
「だいたい! そんな名もない小さな冒険者を救う価値があるとでも!? あなたがそうしてまで助けたい価値があるとでもいうの!?」
がん、がんとフレーシアはソフィの頭を踏みつける。
「……価値は、ある。どんな人間にも、価値はある。人間のもつ可能性は……無限大じゃ。それをむやみに奪うようなことがあってはならん」
「冒険者なんて駒にすぎないですわ! それにあなたはモンスターまで迎え入れている! 理解できない! 理解できない!」
「……狂暴なのは『ダンジョンで生まれた』モンスターだけじゃ。自然界で生きるものたちは穏やかなのじゃ」
「信じられませんわね!」
フレーシアは足をどけた。彼女は憎しみの目を、ソフィにむけ続けている。
彼女はソフィの存在が理解できなかった。
女神という存在を羨望する彼女にとって、その素晴らしい地位を捨てて人間に成り下がったソフィを許すことができなかった。
なぜ、このようなものが女神でいられたのか。なぜ、わたくしは女神になれないのか。怒りは激しさを増すばかりだった。
「恥を知りなさい。あなたはわたくしにすべてを奪われたのですわ。その相手に、お金を貸してくれなど……馬鹿にもほどがありますわ!」
「それでも……わしは、おぬしを頼るよりほかはないのじゃ。頼む……フレーシア」
ソフィが顔を上げる。
あれだけのことをされて、目に曇りはない。鼻血をぬぐうことなく、ソフィはフレーシアを真っすぐに見つめていた。
フレーシアはその視線をうけてたじろいだ。
「……貸したお金は倍にして返しなさい。よろしくて!?」
「必ず。倍にして返す。恩に着るぞ……フレーシア」
ソフィは床に額をつけようとする。それをフレーシアの声が止めた。
「おやめなさい! 軽々しく頭を下げるのは! あなたの土下座なんかには何の価値もありませんことよ! お金は後でモンスター居住区に届けさせます。もう、しばらくはあなたの顔なんて見たくありませんわ。さっさとお帰りになって」
「……ありがとう。フレーシア」
ふん、とフレーシアは顔を背ける。
指定された金は用意した。あとは、備えるだけ。できる限りの対策を講じる。
「それくらいしか、あの子らにしてやれん。そのためなら、いくらでもこんな頭、さげようぞ」
ソフィは鼻血をぬぐい、歩き出した。
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