第28話 決着!

「アレンさん! 雷の魔法を! 距離が詰められたら牽制してください!」

「わ、わかった! 【サンダーボール】【サンダーボルト】!」

 僕は雷の魔法を連発した。

 小型のカニはそれで霧散したけれど、数が減らない。大きなカニは雷をモノともしないけれど、炎に包まれた小型のカニを嫌がっているようで動きを止めていた。


 僕たちはカニを誘導しつつ、少しずつ外へと向かう。ものすごく疲れる。

「がんばれアレン! ユーリ! おまえたちの魔法が頼りだ!」

 セブンも鉱石を【シュート】で飛ばして応戦している。


 坑道を出た後がまた大変だった。山を下りながらの戦い。道が開けた分、至るところからモンスターが襲撃してくる。

 今回に関してはゴッツさんの剣を置いてくればよかった。重くて重くて、身体がキツイ。

 魔法を打つたびに、頭が重たくなるというか痛くなるというか、どんどんつらくなっていく。でも、ここで弱音を吐くわけにはいかない。


「もう少しだ! ふんばれ、アレン!」

 セブンの声を聞き、僕は力を振り絞る。

 なんだかあたりがだんだん暑くなっていく。汗だくになりながら、剣を、魔法を振るう。


「見えました。あそこですね」

 湯気のたつ水面が見えた。大きな、大きな温泉。ここからが……本当の正念場だ。


「くぅ……重いっ!」

 ユーリが全身を振るわせている。

 なんとカニの巨体が──浮いている。ユーリは魔法の力で、カニを『投げた』。

 バシャアッァァと激しい音を立てて、温泉が飛沫を上げる。


「アレンさん! 温泉に向けて雷の魔法を!」

「は、はいぃっ! エクレール、頼む!」

「で、でもアレンちゃん……これ以上は……」

「大丈夫! 信じて!」

 ここでやらなきゃ、後がない。

 僕の想いが伝わったのか、エクレールから力が流れ込んでくる。とても大きな力だった。暴発すれば、僕の身体は弾け飛んでしまうかもしれない。僕は気持ちを落ち着かせ、静かにイメージした。


 竜のように激しく空を駆け巡る無数の雷を──ひとつに束ねる。それを一気に、放つ!


 温泉一面に雷が走っていく。電撃を受けて、カニが激しく痙攣しているのが見える。

「この……っ! 重力魔法を無理やりはねのけようと……!?」

「ユーリ! おれの魔力を使え! ちょっとは足しになるだろ」

「そのつもりです!」

 カニがぎりぎりとハサミを動かしてもがいている。


「抑えるのに手いっぱいで、これでは……炎の魔法を同時に放てない! 仕方ありません……禁じ手です!」

 ユーリが右眼の眼帯を外した。

 右眼が紅く、さらに紅く輝いた。

 そこから炎が噴き出していく。まるでドラゴンが吐いた炎のようだった。


 炎はカニを、温泉を熱していく。

「邪魔だ、モンスターども! ユーリには近づけさせねーぞ!」

 僕からゴッツさんの剣を受け取ったセブンが、モンスターたちをなぎ倒していく。あの剣、もうセブンにあげようかな……。


「おらおらおらおらっ! 蒸し焼きだこらぁっ!」

 ユーリの方から荒々しい声が聞こえる。僕はもう、そちらに目を向ける余裕はない。ひたすら、雷の魔法を放ち続けるだけだ。あのカニが動かなくなるまで。

 

 雷と炎。その波状攻撃を受けカニは苦しむ。温泉の温度は上がり続けているようで、ついにぼこぼこと沸騰し始めた。


「小僧っ! もう一押しだ! 漢を見せやがれ!」

 ユーリの方から飛んでくる荒々しい声に、僕は心を奮わせる。

「エクレール、いくよ!」

「うん! いける! すごい、すごい! アレンちゃんすごい! アタシと……深いところまでつながってるみたい! こんなの、はじめて!」

 より強い雷が放たれた。

「やるじゃねーか、小僧! オレ様ほどじゃねえけどな! はっはっはー!」

 炎が勢いを増す。

 力を放つ。力を放つ。力を放つ。限界を超えて、ありったけの力を!



 ──。



 ──終わりは唐突に訪れた。


 カニはぴたりとも動かなくなり、周囲からモンスターの姿が消えた。


 温泉からぼこぼこという音だけが鳴っている。


 カニはぐるんとお腹の方を向けて、ぷかりと浮かんだ。


 やった……のか?


「は、はははっ! や、やったぜ。こんなに……うまく……ことが運ぶたぁな……」

「……なんとか、なりました、ね。たぶんもう……同じことは……できないでしょう」

 セブンもユーリもその場に座り込んだ。


 僕はふたりのところに行こうとしたけれど、重い眠気に動くことができなかった。

「アレンちゃん、魔力を使い果たしちゃったんだよ。よく頑張ったね」

 エクレールが小さな手で僕の頭を撫でてくれている。

 エクレールのおかげだよ。そう言おうとしたけれど、もう口が開かない。

「伝わってるよ、アレンちゃん。いつも優しいのね。すごく好きになっちゃいそう。今はゆっくり休んで、アレンちゃん」



 僕は目を閉じた。


 心地よい眠りが、訪れた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る