第29話 ユズユ

「あ。アレンちゃん、起きたー!」

「おっ。目覚めたかね客人。まさか本当にやってのけるとは……恐れ入ったさー!」

 目を開けると、僕の顔を覗き込むエクレールと、豪快に笑うロゥグさんが見えた。


「温泉がしばらく使い物にならなくなったのは痛いけんども、まぁ安いもんさね」

 僕は身体を起こした。まだ頭がぼーっとする。

「……あ。温泉……ダメになってしまったんですね……すみません」

「気にすんなさ! 温泉よりも鉱山! あそこが無事ならいくらでもやり直しがきくさ! ヌシたちだから言うが、あそこは天然の鉱石が自然と湧き出るダンジョンでな! いやー、本当に助かったさー!」

 ロゥグさんはガハハと笑い、僕の背中をバンバンと叩いた。すごく痛い。本当にゴッツさんみたいだなこの人。


「約束通り、ヌシらに力を貸すさ! オレっちは行くことができないがね、オレっちの娘と、腕利きの職人を数人、中央都市モンスター居住区に派遣するさ!」

「おま、娘いんのか。はー、時の流れを感じるなー」

 セブンもすぐそこに座っていた。そういえばユーリの姿はないけど、どこに行ったのだろう。


「おーい、ユズユ。こっちこい!」

 ロゥグさんが大声で言うと、奥の間からとことこと小さな女の子がやってきた。

 少し赤色がかった髪を、大きな三つ編みのツインテールにしている。髪のボリュームがすごい。作業着っぽい服を着ていて、腰に工具袋をつけていた。


「オレっちの娘、ユズユさ。今年二十歳になる」

「ハタチ……だ、と!?」

 ドワーフは小柄だから、大人でも子供くらいの大きさは珍しくないという。

 セブンが驚いたのはロゥグさんの娘の見た目ではなく、娘がいてかつ二十年ら、客人に挨拶しな!」

 

「こんにちは、クソやろうども」

 そう言って、ユズユさんはぺこりと頭を下げた。

「……えっ!?」

「なにじろじろみてんだこの変態め。おとといきやがれさー」

 ロゥグさんが困ったように笑う。

「オレっちたちは人間の言葉が苦手さ。これでもユズユはちゃんとしゃべれる方さね。人間の文化に興味はあるものの、文字は読めなくてな。オレっちが喋っている言葉を聞いて、真似て使ってるのさ」

「は、はぁ……」

「……なにか間違ったさ?」

「せっかくの機会さ。この子に人間の文化とか色々と教えてやってくれさ」

「よろしくな、お前ら」

 ユズユさんは丁寧にお辞儀をした。


 とにかく、こうして僕たちはドワーフの職人たちの協力を得ることに成功した。

 僕たちはユーリが戻ってくるまでの間、ユズユさんの案内のもと、ドワーフの里を見学するのであった。

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