第6章 初級ダンジョン【ムツキ】

第13話 サンダーボール!

 初級ダンジョン【ムツキ】。

 中央都市のギルドが、その試験会場でも使うというダンジョン。僕たちは、そのダンジョンの入り口までやってきた。


 僕はゴッツさんからもらった、あの剣を持ってきていた。やっぱり重い。これのおかげで、中央都市まで来る道中が本当に大変だった。

 全身筋肉痛。身体の状態はよくないけれど、これも自分を鍛えるためだ。それに魔法を試したくてじっとしていられない。


「入り口は全部で10個。初級冒険者たちがわらわらやってくるから、混雑防止のためにルートが分けられているの。それぞれが完全に独立しているから途中で合流することはないけど、一番下の階……ゴールだけはつながっているんだー」

 エクレールがなつかしいなーここ、とつぶやく。


「で、どうするよ。みんな仲良く一緒に行くか? ちと大所帯な気もするが」

 おれはどっちでもいいぜー、とセブンが言う。

「今回はパーティを小分けにして、それぞれ別のルートから行こう」

 僕が提案する。出会ったばかりの僕たちは連携が取れないだろう。それは建前で、昨日発現したスキルを自由に色々と試したいのが本音だけれど。大勢で行動すると、なかなか使う機会が出てこないかもしれない。

 皆、なんとなくそんなことを考えていたのか、この提案は採用された。


 班分けに関しては、僕(とエクレール)、セブン。

 キースさん、ニコル、ブルー。

 クルスさん、ゲイルさん、ユーリ。


 この3つの班で行動することとなった。ちなみにユーリは昨日からずっと図書館にこもりっぱなしだったのを、何とか説得して来てもらった。すごく不機嫌だ。使命がどうとか言っていたけど、どうなったんだろう。


「それじゃあ、出発しよう。みんな、無理はしないようにね」

 僕たちは、それぞれの入り口を選んだ。



「さっそく出たな、モンスター! あ、おれもモンスターだった! お仲間さんやっつけちまっていいのかなあ」

 今更ながらにセブンが言った。

「ダンジョンで生まれたモンスターの命は、ダンジョンで循環するっていうし、いいんじゃない?」

 エクレールが興味なさそうに、わりと適当な感じで言った。

「え、そうなの? じゃあ、まぁいいか」

 セブンもわりと適当な感じだった。


 第一階層。

 僕たちの前に現れたのは、ゴブリンだった。


「ゴフッ……ぐぎゃぎゃ」

 緑色の肌をした小鬼は、手にこん棒のようなものを持っている。下級モンスターとされているが、人間の武器を扱う知能があり、数が揃うと一気にその危険度は増す。

「あ、ちょっと待っててくれ。一応、コミュニケーションがとれるか試してみるわ。おーい、そこの緑の人!」

 セブンがゴブリンに向かって走っていく。


「ダメだった。あいつ、人の話聞かないタイプだわ」

 セブンが殴り飛ばされた自分の頭を抱えて戻ってきた。

「どうも、居住区のモンスターたちと根本的なものが違う気がする。なんでだろ」

 セブンは戻した首をこきこきと鳴らした。

「よし、アレン! 遠慮なくぶっとばしちまえ! それともあれか? 昨日発現した雷の魔法ってのを使うのか?」

 もちろんそのつもりでいた。

「でも、どう使えばいいんだろう。僕はあんまり魔力がないんだけど……」

「だいじょうぶ! アタシに任せて!」

 ふと、頭の中にイメージが流れてくる。自然と手が動く。


「──【サンダーボール】!」

 手のひらからばちばちと、雷の球が放たれる。

「ぐぎゃっ!?」

 球は当たらなかったけれど、驚いたゴブリンは逃げ去っていった。

「……すごい。こ、これが、魔法」

「高度な魔法はながーい呪文を唱えたり、ややこしい【魔法式】を使わなきゃ、魔力・精神力・体力とかもろもろごっそりもっていかれちゃうんだけど……アタシそのものが魔法式みたいなものだからね! 消耗は最低限に抑えられるし、威力も最大限にひきだせるんだよ!」

 魔法式。初めて聞く単語がでてきた。

 派手な魔法を放つ、パーティ後方の花形、魔法使い。僕には無縁の職かと思っていたけれど、色々と知っておく必要はありそうだ。


「ちなみに今のは雷魔法の下級魔法だけど、あれくらいならほとんど魔力の消費なしで打てて連発できそう! アイリスはあれでも結構消費してたけど……やっぱり相性って大事なのねー」

 エクレールがうんうんと頷いている。


「魔法……魔法。何か思い出せそーな。あっ! おれも魔法使えたわ! 確か!」

 腕を組んで見ていたセブンが突然言った。

 記憶を失っている、ガイコツのモンスター。これも今更ながらに思うことだけれど、彼は一体何者なんだろうか。


 ダンジョンでも、意思疎通が可能なモンスターはいる。実際に遭遇したこともある。しかし、人間の言葉が通じる種は少ない。

 中央都市のモンスター居住区には、セブンを始めとして多くのモンスターが人間の言葉を理解し、話すこともできる。よく見て回ったわけではないけれど、人間を見ても敵意をむき出しにするモンスターの姿はなかった。


「ぎぎぎぎ!」

 ゴブリンが、今度は3匹で現れた。先ほど逃げたゴブリンが仲間を連れてきたのだろう。

 敵意むき出し。狂暴。ダンジョンのモンスターは、冒険者に、いや人間に容赦がない。この違いは何なんだろう。


 考えるのは後回しだ。

 今はこのダンジョンに専念することにしよう。

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