第14話 盾代も浮くんじゃねーかなこれ

「よっし! 次はおれの番だな。まずは思い出した、おれの魔法をくらうがいいぜ! 【シュート】!」

 セブンの周囲のこぶし大ほどの石が浮き上がり、すごい速さでゴブリンに向かって飛んだ。

「ぎゃぎゃぎゃ!?」

 ゴブリンたちがあわてふためく。一体は頭に直撃を受け、その場に倒れた。


「おれの半径1メートルくらいの物質は、こうして飛び道具として放つことができる無属性の魔法だ。すげー重たいもの以外は何でも飛ばせるぜ! たぶん!」

「アーチャー系のスキルじゃん、それ」

「そうなんだよなー。おれ、実は狩人系の職だったんかな?」

「アタシに言われても」

 矢などのストックがなくなっても、その場のモノを流用して飛び道具として使える……アーチャーの最後の手段と呼ばれる魔法。その存在だけは知っていたけど、見るのは初めてだった。


 ゴブリンたちは怯んだものの、奇声を上げながら僕たちに向かってきた。

「よし、次はスキルを試してみるぜ! えっと、【英霊の盾】!」

 セブンが叫ぶ。すると、その前方の空間にぼんやりと淡く光る、半透明の『盾』が現れて、ゴブリンの攻撃を弾いた。

「……これ、普通に自前の盾で防御すりゃいいんじゃねーかな」

「う、うーん。あれかな、盾を持ち歩かなくても防御手段が得られるスキルなのかな」

「なるほど! そいつぁ便利だ! もっかいやってみよ! ──【英霊の盾】!」

 今度は先ほどとは別の形の盾が現れて、ゴブリンの攻撃を弾き【反射】した。ゴブリンは自分の攻撃の威力を受け、倒れた。

「なんだ? 使うたびに違う盾が出てくるのか?」

「そう……なのかな」

「とにかく、常に盾を持ち歩かなくてもいいことが分かったぜ! 盾が壊れても安心だな!」

 からからとセブンが笑う。笑っているのかな、あれ。


「あ、最後のゴブリン逃げた!」

 エクレールが言った時には、その背中はすでに遠くにあった。

「また仲間呼んでくるのかな……大勢呼ばれると厄介だ」

「雷の魔法って範囲攻撃多いから大丈夫だろ。あいつら、雷嫌いっぽいし、もう来ないんじゃないかな」

 セブンが楽観的に言う。そうかもしれないけれど、僕は油断しない。気を抜いてはならない。


「まぁ、そう硬くなるな。見えるモンも見えなくなっちまうぜ。例えば」

 セブンが小手で飛んできた矢を落とした。

 ──トラップ!?

「初級ダンジョンとは思えない初見殺しがきたな。ともかく、気づかなかったろ? 注意しても、目の付けどころが違えば死角ができるもんさ。戦場……じゃねえな。ダンジョンではそれが命取りになる」

 セブンが一歩を踏み出すと、また矢が飛んできた。彼はそれを叩き落した。

「鎧着ているからよけるまでもねーんだけどな、これくらいの矢は。ま、タンクのおれが先行して歩く。役割分担ってやつだ」

 いつも軽い感じのセブンだったけれど、あれは余裕の表れなのかもしれないと僕は思った。初級冒険者の僕にとっては、学ぶべきところがたくさんありそうだ。


「ふ。素直なやつだな。そこらの冒険者なら、こんなガイコツが何をえらそうにって突っかかってくるとこだぜ。ま、そういうやつらはそもそもおれみたいなモンスターとパーティは組まないだろうけどな」

 いいやつだよ、おまえは。そう言って、セブンは僕の肩をぽんぽんと叩いた。


 その後。

 ダンジョン探索は順調に進んだ。

 ゴブリンやコボルトといったモンスターがたまに出てくるくらいで、大きなトラップなどにもかかることはなかった。


 そして、僕たちは中間地点である5階層にたどり着いた。


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