第12話 契約

「ねぇ、アレンちゃん。ちょっとお話があるんだけど、いい?」

 突然。

 エクレールが真剣な顔で言う。なんだろう、改まって。


「あの、えっと……アレンちゃん──アタシと契約してください!」

 エクレールがまるで愛の告白のように僕に言う。

「あれ? エクレールはアイリスと契約しているんだよね?」

「うん。でも、仮契約みたいなものだから……」

「仮? でも、いいの? アイリスは──」

「アイリスはアタシのマナを繋ぐために、無理やり契約してくれたの。本来は属性が合わないから契約できないか、できたとしても十分に力が発揮できないというか」

「属性……」

 そういえば、先ほど僕は雷の魔法を発現した。つまり僕は【雷の属性】ということなのだろうか?


「そう、アレンちゃんは雷の属性。しかもアタシと相性ぴったり。こんなにもマナの波長が合うなんて……。見つけたの、アタシは、アタシの運命の人を」

 エクレールがうっとりと言う。

 マナの波長とかはよくわからないけれど、確かになんだかエクレールの近くにいると力が湧いてくるような感じがある。

「アイリスは何となく気づいていたのかも。あんな感じで別れちゃったけど、たぶんアタシのこと考えてくれてたんだ」

「……そうか」


 ──せいぜい、アレンに面倒見てもらうことね──

 アイリスのあの言葉は、そういうことだったんだ。


「それで……アレンちゃん……どうかな。アタシじゃ、ダメ?」

「僕でよければ、ぜひ。エクレール、キミの力を僕に貸してほしい」

 エクレールは言い終わる前に、僕の顔に抱きついてきた。

「うれしい! ありがとう、アレンちゃん! ちゅっ」

「く、くすぐったいよエクレール。でも精霊との契約って……僕はどうすればいいのかな」

「えっとね、特に難しいことはなくてね。アタシに任せておいてくれれば大丈夫。そこに座って、それで、目を閉じて」

 僕は言われた通り、その場に座り目を閉じる。エクレールが何か、呪文のようなものを唱える声が聞こえてきた。

 胸のあたりがじんわりと温かくなってきた。



 ──汝に問う。


 声が聞こえる。それはエクレールの声ではなかった。

 


 ──汝は力を求める者か。


 力……?

 力は、欲しい。僕は強くなりたい。そうしなければ、冒険者としては生きていけない。



 ──汝は自らの欲望のために力を求める者か。

 

 欲望……と言われれば、そうかもしれない。でも、強くならなければ誰も守ることもできない。あんなに悔しい想いは、もうしたくない。



 ──汝は何のために生きる者か。


 僕は……冒険者。夢に生きる者。希望を捨てず、前に進む者。




 得たり。──汝は悩み、苦しみ、もがき、それでも前に進む者。正しい選択ができる者。力はむしろ、汝を正しい道に導くだろう。


 ──契約はここに成された。


 ──汝に祝福を。



「……今のは?」

「大精霊って呼ばれてる存在ね。アレンちゃんが悪い心を持っていないか確かめにきたのよ。アタシが選んだ人だから大丈夫なのに」

「だ、大精霊……?」

 ここに来てから色々なことが一気に起きて目が回りそうだ。頭の中の整理も追いつかない。中央都市を色々と見て回るのはまた次の機会にしようかな。



「それじゃアレンちゃん、デートしよ! この都市のこと、色々と教えてあげるね!」

「あ、ああ、うん。ありがとう、エクレール」


 休んでいる暇はなさそうだ。

 僕は、はしゃいでいるエクレールに疲れを悟られないように、笑顔を向けて見せるのだった。

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