第11話 新たな拠点 そして 新たなクエスト

「すまんのう。すまんのう。わしがへぼいせいで迷惑かけてすまんのう」

「いや、別にソフィさんのせいじゃ……」

 ソフィさんはずっとめそめそと泣いていた。

「そうだ。それにオレたちここに来たばっかりでまだ何も迷惑かかってないぞ」

「そうそう。ま、このモンスター居住区が使えてよかったじゃねーか。ミノさん、大張り切りで家作ってくれてるぞ。ってかキース、おまえおれとキャラかぶってねぇか、ちょっと」

「うるせぇ、ガイコツ野郎。次にその顔見せてニコル泣かせたらバラバラにしてやる」

「き、キースさん、ボク、もう泣かないから大丈夫です!」

 いきなりギルドのホームを失うことになったけれど、僕たちはとてもにぎやかだった。


 ──あの時やってきたのは、南の大ギルドからの使いだった。

 冒険者がいなくなった北の大ギルドの規模を縮小し、設備や施設を南の大ギルドに譲渡しろとのことだった。

 ソフィさんは拒否したけれど、なんでもこの中央都市の偉い人たちの承認を得ているらしく、ぞろぞろとやってきた衛兵みたいな人たちに僕たちは追い出されてしまった。

 こうして北の大ギルドは何もかもを失うこととなった。ソフィさんは気の毒だけれど、僕たちはそもそもゼロからのスタート……どころか、スキルを得られているので良いことしかなかった。


「とりあえず、ここを拠点に活動しましょう。初級冒険者で大したことできませんけど、力になりますから」

「アレン……いいやつじゃの、おぬし。好きじゃ~! あばばばb」

 エクレールの電撃が、僕に抱き着こうとしたソフィさんに飛ぶ。ギルドの偉い人なのに容赦ないなあ。

「あれ、そういえばユーリってやつどこ行った?」

 セブンがきょろきょろとその姿を探す。

「ユーリ、図書館行くって言ってた!」

 ブルーがぽよぽよ言う。

 本の虫ってやつだろうか。ずっと本が本がとぶつぶつ言ってたもんなぁ。



「おい、大変だ! 北の大ギルドが! ってあれ? ソフィ様、なぜここに!」

 狩人風の恰好をした男性が飛び込んできた。その後に、黒いローブを来た魔法使い風の男がひょいっと軽やかに現れる。


「お、おお!? ゲイルにクルス!? おぬしらは移籍してなかったのか!?」

「私とゲイルは早朝から『塔』に行ってまして。戻ってきたら……と、そこらへんの事情は説明しなくていいですね。ギルドの寮を借りていた私たちは住む場所を失って、途方にくれてここにやってきたというわけです」

「……すまんことをしたのう」

 ソフィさんがしょぼんとする。

「以前から南の連中が手あたり次第、北の冒険者を勧誘する動きはありましたが、それにしても全員とは……一体どんな手を使ったのでしょう」

「買収したとか言っておったのう」

「いくらなんでもそんなこと……それに、金で心が揺らぐものばかりではなかったはずでしょう」

「わしの人望がないからじゃああぁぁ」

 ソフィさんがわんわんと泣きだした。


「どちらかというと好かれていたと思うが……マスコット的な感じで」

「そうですねぇ。癒されますからねぇ。ともあれ、連中が金以外でも何らかの手段を用いたとみるべきでしょうね。それはさておき、セブンさん、ブルーさん。大変申し訳ないのですが、住む場所が見つかるまで、この居住区の家のどこかをお借りしてもよろしいでしょうか」

「おれにいいぜって言う権利があるかしらんけど、もちろんいいぜ! ミノさんが張り切って家作ってるから、挨拶してきな!」

「ありがとうございます。それではミノさんのところに行ってまいります」

 2人は軽く会釈をして、家から出ていった。


「あ、ちなみにあの狩人風っぽい恰好をしていたのがゲイルで、風の魔法使い。黒いローブ着た魔法使いっぽいのがクルスで、元殺し屋で暗器使いな」

 さらりとセブンが言った。どう見ても格好と【職】が一致していない。不思議な2人だなぁ。


「ここを拠点にすることが決まれば、早速申請してこようかの。イチからやり直し……それはそれでわくわくしてきたのぅ!」

 ソフィさんが目をきらきらとさせている。

「それでおれたちは何してりゃいいんだ。お茶会か」

「各々好きにしておればよい……といっても困るじゃろうな。そこでわしから一つクエストじゃ。中央都市北に位置する初級ダンジョン【ムツキ】を攻略し、最下層にある記念品……じゃなかった、秘宝の【赤色のオーブ】を持ち帰ること! 期日はそうじゃな、1週間。この全員で攻略してもよし、パーティを小分けにしてそれぞれが挑戦してもよし」

「攻略できなかったらクビか?」

 キースさんの問いに、ソフィさんはうんにゃと言う。

「次の1週間もクエスト継続じゃ。おぬしらがダンジョンに挑戦している間、わしはわしにできることをやる! 本当はわしも冒険にいきたいのじゃが、がまんする! まぁ、今日はゆっくりと体を休め、明日から行動するとよいじゃろ。それじゃ、わしはちょっと色々と動いてくるの」

 ソフィさんは言うことだけを言って、あわただしくその場を後にした。


 【元・女神】のギルドマスター、か。見た目は子供だけど、とても頼もしく感じる。本人は人望がないって言ってたけれど、面倒見がよさそうだし、情に厚そうだし……どうして北の大ギルドの冒険者たちは離れて行ってしまったのだろうか。


 その後、セブンが居住区の空き家を、僕たちに割り当ててくれた。手続きとかいらないのだろうか。

 明日の午前、居住区の広場に集まることを約束し、僕たちは解散した。セブンがクルスさんとゲイルさんにも後で声をかけておいてくれるらしい。

さて、ここからは各々別行動だ。どうしよう。都市を散策してみようかな。



 その時だった。

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