第10 スキル発現(後編)

「次はニコルに試してみてくれ。こいつ、能力が成長しないんだ」

「能力が……成長しない? とりあえず見てみるとするかの」

 ニコルとソフィさんは身長が同じくらいだ。ソフィさんはそのまま、ニコルの額に手をかざしてみせた。

「ふむ。たしかに能力値が低い。スキルも……何も見えん。いや、わしには見えんというべきか」

「スキルは発現していると?」

「わからん。わからんが、なにかはある。気になるのであれば、わしよりはるかにすぐれた鑑定スキルをもつ者のところに行ってみるとよい。紹介はするが……そこそこの金はかかるぞい」

 次にソフィさんはニコルの額に口づけした。


 ニコルの身体が、ほのかに発光する。


「優しい光じゃの。これは回復魔法じゃな」

「回復魔法……でも、ボク、魔力がないのに使えるんですか?」

「不思議。あなたにマナが集まってきてる」

 いきなり、ユーリさんがニコルを、いや、ニコルの周りを見渡している。

「あの、マナって何ですか?」

「自然に宿る魔力の源みたいなもの。それがあなたの周りに集まってきている。あなたの魔力量が少なくても、そのマナが力を貸してくれることでしょう」

「……ボクにも、スキルが……!」

 ニコルはうれしさが込み上げてきているのか、震えて涙ぐんでいる。僕も同じような気分だから、気持ちがよくわかる。

「よかったな、ニコル」

 キースさんがニコルの頭をなでる。その表情は穏やかで、何だかニコルのお父さんみたいだ。親子……じゃないんだよね?


「次は……」

「私はいい」

 ユーリが拒否する。

「必要ないから」

「──ふむ。そのようじゃな。ならばよし!」

「余計な詮索をしてくれなくて助かります」

「ということで、最後はおぬし……キースと言ったか。前へ」

「ああ」

 キースさんがひざまずく。


「……これ、は」

 ソフィさんの表情が険しくなる。

「何かわかったのか? まさかオレの不幸体質の正体が?」

「おぬし……結婚しておったことがあるか?」

「あ? お、おお。あるが、そんなこともわかるのか」

「うーむ……いや、すまん。やはり見えん。一瞬、何か見えたような気がしたのじゃが……」

「そうか……」

「大丈夫じゃ。マイナスになるようなスキルはない。さて、何が発現するかの」

 ソフィさんはキースさんの右手をとり、その甲に口づけをした。あれ? 額じゃない。キースさんも怪訝な顔をする。しかし、湧き上がってくる力にその表情は明るくなる。


「なにかしらの強化スキルかの? 発現させておいてなんじゃが、わしには確認できぬものじゃ。おぬしには何となく、感覚でわかるようじゃが」

「ああ。感覚が研ぎ澄まされたかのようだ。これなら……」

 キースさんは手を握ったり開いたりして、新しい感覚を確かめているようだった。


「さて。改めて歓迎しよう、冒険者たち! 我がギルド【ルミナス】へようこそ! 知っての通り、元々いた冒険者全員すっぱぬかれてしもうたが、おぬしたちが来てくれてうれしいぞ! ここにある施設、設備は自由に使うといい。寝泊りしても構わぬぞい!」


「あ、そのことなんですけどー! すみませーん」

 遠くから飛んできた声に、僕たちは振り向く。


 

 新たな問題の発生に──ソフィさんの笑顔が瞬く間に泣き顔に変わってしまうのであった。

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