闇ギルドのボス、現る
その男は。
「おめぇ……クルスじゃねーか!? どういうこった、これは」
北の大ギルドの冒険者。過去、ジャンともパーティを組んだことがある、元暗殺者。
彼はマガツボシとなったグレイに取り込まれ、命を落としたはずだった。クルスの親友であったゲイルが、マガツボシの一部となった彼を葬ったという話を聞いていたジャンは、彼の登場に混乱していた。
「私の【スペア】は何人かいますからね。あなたの話も【スペア】の一人から聞いていますよ。初めまして、ジャンさん」
そういうと、クルスは知らない顔でほほ笑んだ。
顔は同じなのに、表情の作り方はまるで違う。
「この分だと、他にも知った顔がありそうだな。まぁ、いい。で、まだオレに何かさせるつもりかよ。いい加減にうんざりしてるんだけどな、こっちは」
「ふふ。こちらは正体まで明かしたんだ。キミを手放すつもりがないことくらい察しているだろう?」
ジャンは槍を放とうとして、手に槍がないことに気づいた。
「あの槍は別の場所で預からせてもらっタ。我々の要求をのんでくれたら返そウ」
そう言うヤンに対し、ジャンは舌打ちした。
なんだそもそもヤンって。ジャンと響きが似てるじゃねーか。
「下調べが足りねーんじゃねーのか。コキ使ってくれているわりにゃ、オレのことよくしらねーのな。……来いっ!」
ジャンが大声で言うと、どこからともなく破魔の槍が現れ、彼の手に収まった。
槍の先が、クルスに向けられる。
「人間相手にゃフツーの武器だけどな、槍から力をもらえば……こんなこともできるんだぜ!」
ジャンの髪の毛がいつもよりも激しく逆立つ。
部屋の壁がびきびきと音を立てて軋む。
「ほう……素晴らしいね。破魔の槍の力をここまで引き出せるなんて。これは期待できそうだ」
ジャンはクルスの目の冷たさにぞっとした。
槍の力でインとヤンも壁に貼り付けにされているにも関わらず、このクルスだけは微動だにせず、微笑みを消さなかった。
──こいつ、本当に人間か。
槍に問うも、槍は何も応えなかった。
「ジャン。私の言うことを聞いてくれれば、悪いようにしない。これまでもそうだっただろう? それに見合う報酬は与えてきたはずだ。そして察しのいいキミのことだから、私がキミに言うことを聞かせるのに次に何をしようとするのかわかっているはず。そう、キミの大切な──」
クルスが喋っている途中で、ジャンはくくっと笑った。
少しだけ、クルスの表情に不快の色が見えた。
「銀翼団を抱え込んだはいいが、連中に指示を出したのは間違いだったな。そこのインとヤンなら、間違いなく、オレと一緒にドロップも拉致してきただろうよ。まぁ、その場合はオレが大暴れして、こっちの計画も台無しになったわけだが」
ドン、という大きな振動が響き渡った。
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