夜の気配が、近づく
「キナくさい連中が中央都市でこそこそしてるのは把握済み。まぁ、おめぇらが裏で糸をひいているのもなんとなくわかってたよ。最近、各地で起きている事件……それを解決するために、そろそろオレに接触するだろうということもな」
「……ふ、ふふ。してやられたか」
再び、振動。
動けるようになったインとヤンが、迫る気配に向かって飛び出していった。
次の瞬間には、二人は床に転がっていた。
「よう、ルシード。早かったな」
「お前のニオイはわかりやすいからな。追うのが簡単だった」
「犬みてーなやつだな」
二人は笑う。
クルスは少しだけ、目を見開いた。
「【黒き雷帝】──」
「以前、会ったことがあるな? 顔は変わっているが……」
「ふふ、ふふふ。これは、敵わないなぁ」
さらに新しい気配がぞろぞろとやってくる。
銀翼団の団員たちが、クルスを包囲し、瞬く間に縛り上げてしまった。
黒い髪の男が、ジャンに向かって敬礼する。
「協力、感謝する」
「おめぇ……何澄ました顔してやがるんだよ。オレの後頭部殴って気絶させただろ」
「……姉を泣かせた恨み。甘んじて受けろ」
「……けっ」
クルスは察した。
銀翼団と北の大ギルドは手を結んでいたのだ。
すべては闇ギルドのボスである自分を炙り出すための策略。
そしてその大きなエサは、ジャン。それに釣られてしまったというわけだ。
「連行しろ」
黒い髪の男が言う。それを、ジャンが止めた。
「少しだけ、待ってくれ。クルスさんよ、最近各地で起きている事件……【災厄】の前触れなんだろ。どっちにしても解決しなきゃならねーんだ。詳細を教えろ」
「──ヴァルプルギスの夜」
「なっ!?」
クルスの発したその言葉は、ジャンを青ざめさせた。
「吸血鬼や魔女を生み出したという【災厄】。世界を魔に染め上げる夜が、現実を侵食する……。それを利用しようと、吸血鬼の真祖の一人、ヴラド伯爵がこの地に現れた」
「ヴラド……だと!?」
カミラをも超えると言われる、最強の吸血鬼。その実態は謎に包まれていた。
ジャンがずっと追い求めていた吸血鬼でもある。
ヴラドの眷属が、自分の家族を殺した。その眷属はジャンが打ち滅ぼしたが、ヴラドが在る限り、新たな眷属は生まれ、そして新たな悲劇が起こることとなる。
「災厄に、真祖か。こりゃ、ただじゃすまねーな」
「すでにヴラドは【領域】を拡張し始めている。彼を倒し、かつ災厄を消滅させることのできる者はキミしかいないんだ。ジャン」
「オレだけでどうにかできる問題じゃねーな。おめぇら闇ギルドの連中の現存戦力がどの程度あるかわからねぇが、どれだけかき集めたとしても心許ねぇ」
こんな時にセブンがいてくれたら、とジャンは思う。また組むのは癪だが、最大の戦力になっただろうに。しかし彼は旅立ってしまった。
「我々が集めた武器と兵士たち、そしてキミの破魔の槍とキミだけが作り出せる吸血鬼化の粉。それがあれば脅威に対抗できるはずだ」
「けっ。おめぇ、ほんとはヴラドのようにヴァルプルギスの夜を利用しようとしてたんじゃねーのか」
「ふふ。否定はしないよ。あわよくば……と考えていた。世界平和を成し遂げるためには力が必要だからね」
「オレを巻き込むんじゃねーよ、オレを」
「しかし、キミはやるんだろう? たとえ一人でも」
そう。災厄を、そして吸血鬼を滅ぼすために、この槍の力を使うのだ。
「ちっ。まぁ、いいように利用されてやるのもこれでしまいだな。もう、二度と会うこともねーだろうよ、クルス」
「闇ギルドの思想は……種は撒かれた。私がいなくなろうとも、次のボスが新たな組織を立ち上げるだろう。消えないよ、我々は」
そしてクルスたちは銀翼団に連行されていった。
ジャンは深いため息をついた。
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