第18話 倒せ! メタル系モンスター(後編)
「銀色のウサギさん、つかまえたよー」
ブルーがずるずると、メタルラビィらしきモンスターをひきずって現れたのだ。
……。
「オマエな、勝手に行動するなよ……ってか、そいつどうやって捕まえたんだよ!?」
「え? 気づかれないように、そっと近づいて、バッとつかまえたんだ!」
そんな簡単に捕まるもんじゃないだろうに。
「なんかこのウサギさん倒すとすごいことになるらしいよ! みんなが話してた!」
「そのようだが、簡単には倒せないんだ、こいつは」
オレは鋼のウサギをコンコンと叩いてみた。硬い。
ウサギは観念した様子でおとなしくしている。だが、倒す術がないからなぁ。
持って帰って売るか? 高値で売れそうだが、持って帰る間に他の冒険者の連中に強奪されかねないな。
「しかしまぁ、ずいぶんとボロボロだな。そりゃあ、あれだけ大勢に追いかけられて攻撃されりゃ、さすがに傷もつくか……ってニコル? 何をしてる」
ニコルは傷ついたメタルラビィに、なんと回復魔法をかけていた。
「ボクたちでは倒すことができないなら、逃がしてあげようと思って」
「……モンスターだぜ、そいつは。まぁ、そこのスライムもそうだが。そこらの犬猫じゃないんだぞ」
「わかっています。でも、なんだか……かわいそうになっちゃって」
ニコルの気持ちは何となくわかる。金属の質感だが、それ以外は普通のウサギみたいな愛らしいやつだ。まぁ、ニコルの好きにさせておくか。
「ブルー、放してやれ。そいつを逃がす」
「うん、わかったー!」
ブルーはあっさりと、素直に言うことを聞く。
「もしかしてオマエ、オレたちのためにあいつを捕まえてくれたのか?」
「うん、そうだよ!」
「……そっか。オマエ、いいヤツだな。ありがとな。だが、オレたちはパーティだ。仲間だ。次からは勝手な行動はしないでくれ」
「……なかま……仲間! うん、わかった! ぼくたちは仲間!」
本当にわかってくれているのだろうか。しかし悪いやつじゃないらしいな。
子供やスライムとパーティを組む日が来るなんて考えもしなかったな。まぁオレにはおもりする対象がいるくらいがちょうどいいのかもしれないな。
「じゃあね、ウサギさん! ばいばーい!」
メタルラビィはきょとんとした後、たたたと駆けていった。
──ずきん。
突然の頭痛。
「……なんか、ヤバイやつがいるようだ。今日の探索はこれくらいに──」
オレが言い終わる前に。風が抜けていった。
バギン。後方の音に振り向く。ダンジョンの岩壁が砕け、何かがめり込んでいる。
あれは、鉄球? いや、違う。
鉄球はぐねぐねと、姿かたちを変えてオレたちの前までやってきた。
「あ、たぶんぼくの仲間だ!」
ブルーが言った。
金属の──スライム!?
メタル系のモンスターがここにも!? なんだこのダンジョン! 中級冒険者くらいなら宝の山だろうが、オレたちにとってはとんでもなく危険な場所じゃないか。
「さっきのがメタルラビィなら、こいつはメタルスライムってところか。やべぇな、あの速さ」
しゃかしゃかと縦横無尽に動き回り、目で追えない。残像が見えるくらいの速さだ。
「ニコル、しゃがめ!」
オレの声に反応して、ニコルがしゃがむ。その上を鉄球となったメタルスライムが飛んでいった。
危ないところだった。危機感知でヤバいところが見えたからよかったものの……立て続けにこられたら、回避しきれねぇ。
メタルスライムがオレめがけて跳んでくるのが見えた。
「キース、あぶない!」
ブルーがぶよんと大きくなって、オレの盾になった。ブルーはメタルスライムを覆ったまま地面にめり込む。
ボゴンと勢いよく飛び出してきたのはメタルスライム。
上へ、下へ、左へ、右へ。跳ね回る。
狙いは──ニコル。オレは身を挺して守ることしかできない。あれを受ければ、即死かもしれないな。
そんな思考よりも速く、メタルスライムはオレの顔面に──ぶつからなかった。
激しい金属音が耳の中で弾け、しばらく何も聞こえなくなる。何かがメタルスライムにぶつかったのだ。
──それは。
「メダルラビィ!?」
「きゅいい」
オレはメタルラビィに助けられた?
「きゅいっ!」
「キース、その子が『ぼくをこいつにぶつけて』って言ってる!」
地面の穴から這い出てきたブルーが、オレにメタルラビィの言葉?を伝えた。
ぶつけろったって……当たるのか? いや、オレには『視えた』。
オレはメタルラビィを持ち、ヤバい予感がするところへと──投げた!
バキィィィン……鋼の欠片がキラキラと地面に降り注ぎ、散っていく。
「きゅい……い」
「メタルラビィ! 今、治してあげるからね!」
ニコルがひび割れたメタルラビィに駆け寄り、回復魔法をかける。しかしメタル系のモンスターの傷も治るなんて、不思議なもんだな……。
メタルスライムの方は粉々になったのに、メタルラビィは砕けなかった。硬さが違うのだろうか。
とりあえず──今回も、生き延びることができたようだ。
運が悪いんだかいいんだかわからないが、こうして生きていることが何よりだ。
と、そこで頭の中でピキィンと音が鳴り、全身が熱くなった。
「キースさん、何か今……」
「ぼくも何か変な感じー!」
この感覚は、あれだ。【レベルアップ】ってやつだ。ずいぶんと久々だ。
「ん? 今の感覚がわかるってことは、ニコルも【レベルアップ】したってことか?」
「れべる……あっぷ?」
「これは、確かめてみる必要があるな。今日の探索はここまでにして都市に戻るぞ。確かめなきゃいけないことがある」
「あ、はい。キースさん、この子も連れて行っていいですか? このダンジョンにいたら、また……」
ニコルは意識を失ってくったりとしているメタルラビィを抱きしめている。ひび割れはほとんど治っているようだが……。
「──そうだな。そいつがもしかしたら、ニコルの能力の謎を解くカギになるかもしれない。リュックの中に入れて、隠して連れて行こう」
こうしてオレたちは第1回目のダンジョン探索を終えて、地上へと戻るのであった。
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