第17話 倒せ! メタル系モンスター(前編)

 1階層、2階層、3階層……と進んだが、他の冒険者たちの姿がない。モンスターも出てこない。

 スライムなんてものを連れてきているから、他の冒険者たちにあったらどう説明したものかと思っていたが、そんな心配は今のところいらなさそうだ。


「静かですね……」

 ニコルが不安そうに言う。

 そう、静か……すぎる。しかし、何か異変が起きているわけではないようだった。

 ふいに、背中がちりつくような感覚にオレは足を止めた。

「止まれ。その先に、トラップがある」

 オレは石を投げる。すると、そこに矢が飛んできた。単純だが危険なトラップがあるな。当たりどころが悪ければ大けがだ。初級とはいえ、パーティを組むことを前提としたダンジョンなのだろう。


「すごい……どうしてわかったんですか?」

「オレが授かったスキル【危険感知】のおかげだな。前からヤバイ空気を感じることはあったんだが、それが強化されたようだ」

 死神と呼ばれるほどの不幸体質のオレには常に危険と隣り合わせだった。だから「これはヤバイな」という雰囲気は何となく感じることができた。ヤバイと思っても、それを回避する術はなかったのだが。

 しかし、このスキルによって、そのヤバイところがおぼろげながら『視える』ようになったのだ。ぼんやり黒いモヤみたいなもの、それがヤバイところだ。

 どれだけの危機感知できるのかはわからないが、オレにとっては危機を回避できるといことはとても大きなことだった。


 さらに進み、5階層。そこでようやく、他の冒険者たちの姿を見かけた。

「くそっ! 見失った! どこいった!」

「また下の階に逃げたらしいぞ!」

「何!? ここのモンスターは階を移動できないんじゃなかったのか!? 急げ!」

 彼らは何かを血眼になって探しているようだった。


 そしてまた、誰もいなくなった。一体なんだってんだ?

 あいつらが先行してくれているおかげで、モンスターもトラップもほとんどないってわけか。


 7階層まで降りると、今度は傷だらけの冒険者たちがそこらへんに座り込んでいた。

「う、うう……やられた。まさかモンスターの巣に誘い込まれるとは」

「そこのあんたら、回復薬持っていないか? 回復魔法でもいい」

「あ、ボク……回復魔法使えます! ええと……【ヒール】!」

 ニコルがあたたかな光を放った。それは広域に拡散し、冒険者たちを癒していく。

「おぉ……痛みが消えていく。それにこれはワイドヒールか。まだ子供なのに、回復魔法の才能があるんだな。助かったよ」

 お礼を言われて、ニコルは照れている。

 ワイドヒール……広範囲の回復魔法、か。ニコルにスキルが発現したということは、やはり全く成長しないというわけではなさそうだ。成長には何か条件があるのかもしれない。


「ところでこの騒ぎは一体何なんだ」

「でたのさ。【メタルラビィ】が」

「ああ──なるほど」

 幸運の銀ウサギか。それでこの騒ぎ……納得だ。

 オレはきょとんと首をかしげているニコルに説明する。


 メタルラビィは鋼のような体毛、皮膚を持つウサギ型のモンスターだ。

 かなりの硬度で、普通の武器ではまるで歯が立たない。そしてかなり素早い。魔法も効かない。ゆえに捕らえることもできない。

 しかし、運よく倒すことができれば、能力値があがる……いわゆる【レベルアップ】できる可能性が高い。新たなスキルを発現したり、スキルのレベルが上がったりもすることもあるのだとか。

 初級ダンジョンで見かけることはほぼないらしいが、ここでは出現するのか。


「そんなモンスターもいるんですね。でも、ボクたちでは倒せそうにないですね」

「そうだな……まぁ、オレたちの目的はそんなレアなモンスターを倒すことじゃない。余計なことはせずに、堅実に行くとしよう」

「はい! ……あれ? ブルー、どこ行ったんだろう」

「ん?」

 あのスライムの声をずいぶん長い間、聞いていない気がする。いついなくなった?


「そういや、なんか変なスライムがメタルラビィを追いかけていったな……なんだったんだ、ありゃ」

 冒険者の一人がそんなことを言っているのが耳に入ってきた。

 ブルーだ。あのスライム、いつの間に先に進んでいたんだ。


 こめかみのあたりがチリついた。嫌な予感がする。

「とにかく、あのスライムやろうを追いかけよう。モンスターに喰われちまわないうちに、見つけ出さなきゃな」

「は、はい!」

 オレとニコルは下の階層を目指した。


 そして。


 8階層に降りたオレたちを、驚きの光景が待ち受けていた。


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