番外編:最強決定戦!?─バトル・フェスティバル!!─その1
中央都市の外れに突如としてある建造物が現れた。それは最初からそこにあったかのような存在感を放っている。
ミノさん含む【ダンジョンメーカー】ミノタウロスが総力をあげてほんの一週間程度で創り上げたそれは【コロシアム】だった。
「わたくしたちの許可なく、勝手にこんなものを創るなんて……どういうつもり!?」
大ギルドマスター、フレーシアがミノさんに詰め寄る。
「む。依頼主からは許可が出ている、と聞いていたが」
「誰なんですの、その依頼主とやらは!」
「私だよ、フレーシア」
「──ギムレット」
その男はフレーシアのかつてのパーティメンバーである【英雄】ギムレットだった。彼の突然の登場はフレーシアを驚かせた。
「久しぶりだというのに、変わりませんわね」
「君も」
ギムレットの目はギラついている。表情にも自信が満ち溢れている。共に冒険していたあの時のまま、変わっていない。
「こうしてまた会える日が来るなんて……嬉しいよ、フレーシア」
「わたくしはあまり嬉しくないですわね」
「ふふふ。そう言うなよ」
「ずいぶんといい身なりをしてますわね。”商売”とやらが成功したのかしら?」
「ああ。君が中央都市の大ギルドマスターになったことは風の噂で聞いていた。その真似事をさせてもらったんだよ。南の大陸でね」
フレーシアはギムレットの後ろに視線をやる。
褐色の肌の男女。南の大陸の冒険者か。バーサーカー、アマゾネス……エルフもいる。いずれも粒ぞろいのようだ。
「中央都市の冒険者たちに挑むつもりかしら?」
「その通り。私が創り上げた自慢のギルドの中でも選りすぐりの”戦士たち”を連れてきた。中央都市が世界最高峰……それを過去の話にしてやる」
「それでその頂点にあなたが立つ……と」
「ふふ。わかっているじゃないか」
なるほど、それでこのコロシアムか。
資金力、権力、そして“力”。すべてを見せつけて、中央都市を牛耳ろうというわけか。相変わらずの野心家だ。
「井の中の蛙ですわね。いいでしょう。真正面から叩き潰してさしあげますわ」
「望むところさ」
二人は同じように、不敵に笑った。
「──というわけなので、ご協力お願いしますわね」
フレーシアからの報告を受け、ソフィ、クライムが同時に肩を落とし、深いため息をついた。
「というわけで、ぢゃないんじゃよ……」
「今の私に何も言う資格はありませんが……復興したばかりの中央都市の命運に拘わることを勝手に決められては……」
ああ、だからドラゴンバスターズ団長オーランドは、その話をいち早く聞きつけて【鍛錬所】に籠ってしまったのか。おかげでいつも以上に雑務が増える増える。クライムの胃がきりきりと痛みだした。
「ふむ。南の大陸は戦闘民族が住む土地があちらこちらにあったな。ギルドを立ち上げ、それらをまとめあげたか。さすがは【英雄】といったところかの」
【絢爛舞踏】【英雄】【賢者】……フレーシアのパーティは当時、異彩を放っていた。彼らの栄光と挫折。そのすべてを見てきたソフィは複雑な気分になる。こんな形でフレーシアとギムレットが再会することになるなんて……。
「半月後にあのコロシアムで【闘技大会】が開催されますわ。勝ち抜き戦……トーナメント方式ですわ。頂点に立つのは、ひとり。優勝者、上位入賞者には何かしらの賞品が用意されているみたいですわ。興味ないですけど」
「ふむ……。南の大陸の戦闘民族は身体能力の高さはズバ抜けているとはいえ、スキルや魔法の扱いは中央都市の冒険者と比較すると大きく劣っておった。しかし今、満を持して挑んできたということは」
「勝算がある、ということでしょうね」
クライムがいつもの仕草で丸眼鏡を整える。
「……中央都市の冒険者も大きく変化していますわ。ドラゴンに対抗できる組織ドラゴンバスターズ、それにアイリスや鬼エルフ……セレナのような新世代。かつてのわたくしたちのレベルを、限界の壁を大きく超える冒険者たちが数多くいますわ」
「そこなんじゃよなぁ……それを知らずしてあやつが挑んでくるとは考えにくいが……」
「なんにしても、小細工なしの全力で叩き潰すのみ。特級冒険者たちを集めますわよ。クライムは南の大陸から来た冒険者たちのプロフィールを全部洗いだしてください、明日までに」
「あ、明日!? いや、あの、他にも色々と仕事がですね」
「あ? てめー、モノ言える立場かよ? わかってんのか?」
「素、素。フレーシア、素が出とる」
「あら、失礼いたしましたわ。それじゃ、よろしくお願いしますわね」
クライムは硬直から解けた。
実はフレーシアは以前存在していた【スラム】の出。手の付けられない荒くれものだったという。とある冒険者に素質を見出されて輝かしい冒険者の道を歩まなければ、天下の大悪党にだっていただろう……とも言われていた。そんなフレーシアの過去を知る者は数少ないが、その素を目の当たりにしたものも今となっては少ない。まさかここでお目にかかれるとは。
「ふむぅ。血が騒いでいるようじゃの、フレーシアは。あんなフレーシアは久々に見るのぅ。もしかしたら、闘技大会とやらに参加するやもしれんぞ?」
「はい? まさか……いや……ありえないことでは……」
しかし開催は半月後。いくら鍛え直すといっても、全盛期の力を取り戻すには至らないだろう。ただ、かつての友との再会と、大規模な闘技大会の開催に気持ちが昂っているだけだ。そう、クライムは思っていた。
闘技大会当日を迎える、その時までは。
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