第99話 雪祭り
巨大な、氷のドラゴンが立っていた。
ジャンたちはそれを感嘆の声をあげて見上げる。
精巧につくられた氷像である。
「雪祭りとは、いいタイミングで来たなおれたち!」
「いや、遊びできたわけじゃねーんだけどな。まぁ、すぐにはかえれねーから仕方ねぇか」
「おじさーん! あれ、なに!? 何か焼いてるみたいー!」
すでに遠くに姿があるドロップが、はやくはやくとジャンを呼んでいる。
「すっかりなつかれたな」
「なんで怖がってたオレの方になつくんだよ。どう見てもガイコツの方がおもしれーだろ」
「いや、普通ガイコツにゃ近寄らんだろ。気味悪くて仕方ねーもんな。いいから行ってこいよ」
「おめぇも来るんだよ……ってうおお」
ジャンは駆けてきたドロップに腕を引かれ、思いのほか力強いことに驚きながらも歩き出した。
「……さて、と」
セブンは気づいている。自分たちを見ている視線に。それも、至るところから感じる。
(ここで事を起こすつもりはないらしいが……さて、どうしたもんかね)
狙いは、おそらくドロップ。彼女が【黒死の魔女】と知っているのだろうか。だとすれば面倒なことになる。
気配は一定の距離を保っている。こちらが近づくと、すっと遠ざかる。
今はこのまま泳がされておくしかないか。
セブンは周囲を見渡しながら、ジャンたちの背中を追った。
数々の屋台が立ち並ぶ。
ジャンたちはかたっぱしから巡り、食べ歩いていた。
「こりゃスープカレーってやつだな。熱いから気をつけな」
「うん」
ジャンはすっかりドロップの保護者と化し、世話を焼いていた。ドロップはジャンにくっついてひと時も離れようとしなかった。
二人はとても楽しそうだ。離れたところで警戒しながら二人を見ているセブンは、それだけで楽しい気分になれた。それだけ、ジャンとドロップははしゃいでいた。
親子……というよりは兄妹みてーだな。セブンはそんな風に感じていた。
できれば、この関係を壊したくないのだが。それは今、ジャンも願っていることだろう。
嫌な気配は消えている。いつ仕掛けてくるのだろうか。
警戒し続けたものの、何事も起こらず、彼らはただただ、国の催し物を楽しんでいた。
その夜。
「きれい……」
ドロップの瞳が、たくさんの輝きをきらきらと反射している。
町中に飾られた魔法球が、様々な色で光輝き、幻想的だった。
「オレもこんなん初めてみたぜ」
「はぁ。人間ってのはよくこんなものを思いつくな」
「おじさーん! こっちこっち! おっきな樹が、ぴかぴかーって!」
「へいへい。今いきますよっと」
ジャンの足取りは軽い。
それは──ジャンにとっても、幸せな時間だった。忘れていた、温もりがそこにはあった。
ジャンは失っていた家族との時間を取り戻したような気がしていた。それはただの幻なのかもしれない。夢なのかもしれない。それでも、それに浸っていたかった。
どうか。どうか。
この夢が、終わりませんように。
その願いはむなしく。
やがて夢は──終わる。
次の日も、その次の日も、彼らは町で行われる様々な催し物を楽しんだ。
ドロップはずっと笑顔で、ジャンと過ごす時間を楽しんだ。
セブンは「おれ、疲れたから二人で楽しんで来いなー」と、ひとり、町のあらゆる場所を見て回った。
やはり、視ている。複数の何かが。
セブンは、右腕に刻まれた数字の部分に痛みを感じた。
やはり。
いるんだな。
セブンは感じ取った。
来るならいつでも来い。それが、始まりだ。
──”復讐”の。
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