レイヴン、再び
「お呼びですか、レイヴン様」
白い仮面をつけた男にその名を呼ばれ、レイヴン……クライムは苦笑した。
「その名は捨てました。今はクライムです。力を失った、ただの一人の人間ですよ。それはさておき。どうやら吸血鬼たちが動き始めたようです。狙いは【災厄】ヴァルプルギスの夜。そして──」
かつて自分が創り出した、新たな【クリフォト】。
アレンの光の力で消滅したものの、その根はまだ【ガイア】に根付いていた。冒険者を集め排除を試みてきたが、根を守るように現れた強大な魔獣たちに阻まれていた。
「それほど強大な魔獣なら、吸血鬼どもも簡単に手出しができないのでは?」
「ええ。並の吸血鬼であれば、あの魔獣を突破することはできないでしょう。しかもその階層には七つのケモノの一つ【炎】がいます。しかし……それをも打ち破る手を、彼らは持っています」
クライムはいつもの仕草で眼鏡の位置を整えた。
「……まさか、真祖級が?」
クライムは仮面の男の言葉に頷いた。
「複数の真祖級が観測されています。その中の最強格であるヴラドが招集をかけたのでしょうね。大規模な戦闘は避けられないでしょう」
この事態にドラゴンが動かないのはおかしい。クライムはドラゴンバスターズと共にレッドドラゴン【ルビー】とコンタクトを取ろうとしたものの、ルビーだけでなく他のドラゴンの姿も消えていた。
吸血鬼の他に暗躍しているものがいるのか、それとも……。
「かつての四天王たちの力はあてにできません。もっとも彼らが全盛期の力をもってしても真祖たちとはやりあえないでしょうが……。そこで、あなたたちの出番です」
「……【古の力】を解き放つ、と? しかしソフィ様やフレーシア様が黙ってはいないのでは」
仮面の男が言うと、クライムの胃がきりきりと痛んだ。
「まだこんな隠し玉を持っていたのかと詰められるでしょうねぇ」
何より恐ろしいのは。地中深くに埋められることでも、この命を閉ざされることでもない。
仕事の量が倍に増やされることだ。
今でさえ、常人が一週間かけてやる分量の仕事を一日でこなしているくらいなのだ。これ以上に増やされたらと思うと、死んだ方がましなのではないかと思えてくる。しかしクライムに泣き言を口にすることさえ許されていない。
「とにかく、持てる力を総動員しなければこの事態に対処することはできません。私はソフィさんに状況と対処法を伝えてきます。マシュウ、貴方はノアールと共に【古の力】の封印を……頼みましたよ」
「かしこまりました」
マシュウと呼ばれた仮面の男は、すぅっと姿を消した。
……あの時の戦いで、マシュウと【古の力】があったなら状況は変わっていただろうな、とクライムは思う。
しかし、これが定めだったのだ。もう、未練はない。
今はただ、彼らが歩む未来のために戦おう。クライムはソフィのもとへと急いだ。
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