第126話 ともだち

 セブンは夢を見た。


「なにぼーっとしてんだ」

 声の方を向くと、蒼い髪を逆立たせた男が立っていた。

 彼は──。


「──ジャン?」

「ジャン? 誰だそりゃ。また誰かと間違えてるな……ったく。長く生きるってのも考えもんだな」

 ジャン?

 自分で口にしたものの、そんな名前の人物に覚えはなかった。


「ああ。長く……生きすぎたな」

 知った顔はみんないなくなった。新しく、これから出会う者たちも、やがてみんないなくなる。

「なあ、王サマよ。生まれ変わりって、信じてるか?」

「生まれ変わり、か。魂は【天の女神】のもとへと召され、浄化されて再び地上へと降り、新たないのちに宿ると言われているが……どうなんだろうな」

「死んでみなきゃわかんねーし、仮にそうだったとしても全部忘れてるって言うじゃねーか。けどな、王サマ。約束するぜ。オレは死んでも、おめぇのところに戻ってきてやるよ。ともだちだからな。約束だ」

「ふ。適当なことを言うな」

「けけ。おめぇ、不死身のくせして寂しがりやだからな。まぁ、また会える時を楽しみにしてな」


 もし。

 また巡り合うことができるのであれば。

 ……会いたいヤツは他にもいるんだけどな。

「不満そうな顔するんじゃねー!」

「まぁ、せめて覚えておいてやるよ。あんまり思い出したくないツラだけどな」

「言うじゃねーかこのやろう」

 二人は笑う。


 ああ。

 この時間も、やがて消えてしまう。彼もまたいなくなる。それなのに、思い出として残り続ける。二度と戻ってこない時に想いを馳せても、ただ虚しいだけなのに。

「それじゃあな。また会おう、友よ」




 ──。



「なにぼーっとしてんだ」

 声の方を向くと、蒼い髪を逆立たせた男が立っていた。

「──ジャン?」

「さては寝ぼけてるなてめー。まぁ、かなり精神削られたからな……オレもまだ眠いわ。とりあえず帰ろうぜ」


 町は賑わっていた。

 昨夜、悪夢を見たものたちはいなかった。町に再び、平穏がおとずれたのであった。


「……夢を、見た」

 セブンは、ぽつり、と言う。

「ほー。ガイコツでも夢をみるのか」

「ああ。懐かしい、友の夢だった」

「友、ねぇ。そういやおめぇ、意外と知り合いいるよな……変なやつらばっかだけど」

「ジャンくん、友達いないからうらやましいんでしょ」

「うるせーな、カミュ!」

 セブンがふっ、と笑う。


「あ。馬鹿にしたな! けっ。そうだよ、友達なんざいねーよ。悪いか」

「それならおれが友達になってやろーか」

「ガイコツの友達なんざいらねー!」

 言うと思った。かっかっか、とセブンは笑う。

「夢、といえばオレもなんか見たっけな、そういえば。誰かと何かを約束したような。思い出せねー。まぁ、いっか」


 そうか。やはり、なんだな。

 ただ、似ているだけかもしれない。それでも“彼”が約束を果たしに帰ってきたと思わずにはいられなかった。セブンはそう、信じている。


「この先もおめぇと組まされそうでうんざりだぜ」

「まー、そういうなって。仲良くやろーぜ」

「やだよなんだよ気持ちわりぃな!」

 

 それは。

 最後にベルベットが見せた夢なのかもしれないな。


 セブンはそう想うのであった。


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