第125話 少女の見た夢

「愛しい王サマ。あたしの、あたしだけの王サマ。さぁ、一つになりましょう。アナタのすべてを、頂戴」

 セブンは無言で佇んでいる。

 心をずたずたにされ、もう抗う気力は残っていないはずだ。

 これでようやく、彼の全てが手に入る。

 ベルベットは一気に、セブンを喰らおうとした。


 魔剣が、ベルベットを貫いた。


「焦ったな、ベルベット。あと100万年くらい悪夢を見続けてたら、さすがにやばかったかもしれん」

「……王……サマぁ」

「悪いな。ずっと、一緒にいてやれなくて」


 ──風景が変わる。


 ──。


「王サマ! あたしがおっきくなったら、お嫁さんにしてね! それで、それで、ずっと一緒にいてね」

 そんな少女を見て、彼は優しく笑っている。

 少女は花で出来た冠を、頭に乗せてくれた。だから、花でつくった指輪を、左手の薬指につけてあげた。


「わー! すてきな指輪! ありがと、王サマ!」

 太陽の下。その笑顔は、どこまでもまぶしい。



「──くすくす。なんて懐かしい、夢。幸せな夢。この頃に、帰りたいなぁ」

 ただ、ずっと一緒にいたい。それだけだったのに。どうして、こんなに歪んでしまったのだろう。

 彼の孤独に寄り添い、癒してあげたかった。それだけなのに。


「ベルベット。おれの中で、静かに眠れ。これからは、ずっと一緒だ」

「……王サマ。うれしい。もう、離れないから……だから……笑って、ね。あの時のように」

 消えていく意識の中。

 ベルベットは愛しき人の笑顔を見た。


 そして。悪夢ゆめは、終わりを告げた。




 ──。


 彼女もまた、利用されただけだった。相棒のように。心を乱され、操られたのだ。


 右腕の数字の『5』が『4』になる。

 あと、四人。

 彼らには代償を……払ってもらわなければならない。



「セブン! 来たぜ……って終わったのか」

「……ああ。終わった」

「そうか」

 それ以上は、ジャンは何も言わなかった。


 セブンが泣いていたからだ。

 兜の下。ガイコツの目からこぼれる涙はない。それでも、彼は泣いている。ジャンはそう感じ取っていた。


 雲は晴れ。


 月明かりが、彼の鎧を淋しく照らしていた。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る