フィーナの最期

 魔法のハンマーがセブンに直撃するも、砕けたのはハンマーの方だった。

 【反魔法アンチマジック】……いや、単に”硬い”だけか。フィーナは苦笑する。


「これも効かないのかー。うーん、じゃあ、これは?」

 セブンの頭の中に、呪詛が響き渡ってきた。

 ベルベットの見せた悪夢よりも、生ぬるい。セブンはそう思った。

「精神干渉も、呪いも、物理攻撃も効かないときた。反則だよねー、その力」

「おれもそう思う」

「……ま。これからが本番だよー」


 フィーナの身体に、黒いマナが集まる。

「てぇぇぇい! 波動砲はどーほう!」

「どわあっ!? なんだそれ!?」

 黒い閃光が地面を抉る。恐るべき破壊力。あれを食らったら消滅してしまうかもしれない……と思いつつも、さほど脅威に感じないのは死というものに関して鈍感だからか、それとも。その答えはすぐにわかることになる。

 黒い閃光は、上から降り注いできた。セブンはその直撃を受けたのだった。

 セブンは──跡形もなく消滅した。そして再生した。鎧ごと。

「……」

「……」

「……うーーーん。完全に、完璧に破壊したはずなんだけどなー」

「不死身にも程があるだろ、おれ。どうなってんだこれ」

 倒せないなら、永久凍土の中に閉じ込めたり、封印するしかない。それでも力を取り戻した彼はいずれ復活するだろう。完全に滅ぼすには、また魂をバラバラにして取り込むしかない。それができるのは、『彼』しかいないのだが、その所在は不明であった。


「ふふふ、ふふふふふ! 楽しいなぁ! 何をやっても壊れないおもちゃ! 最高じゃない!」

 フィーナが次々と『兵器』を繰り出す。

 爆撃を受け、セブンが砕ける。閃光が、マグマが、疾風の刃が、あらゆるものがセブンを砕く。

「あーっははははは! すごいや! でも、ちょっとだけ再生が遅くなってきたんじゃない!?」

「そりゃあなぁ……フツーなら何回死んでるかわかったもんじゃねー」

 フィーナは激しく笑う。笑いながら、あらゆる【スキル】や魔法を放つ。

 セブンはあえて、それを受け続けた。

 自分が消滅するのが先か、フィーナがすべての力を出し尽くすのが先か。

 フィーナは攻撃を続ける中で、セブンを倒す方法をいくつか思いつくものの、それを実現する術が今はなかった。


「ああ、研究する時間が欲しい! あれもこれも試したい! そうすればきっと、セブンを殺してあげられるのになぁ!」

 故に。

 残念だ。

 フィーナは悲しそうに、笑う。


 セブンの魔剣が、ついに──フィーナを貫いた。

「……げぶっ」

 フィーナの口から血が溢れる。なおも、彼女は笑った。

 血と共に吐き出されたそれを、フィーナはセブンの甲冑に取り付けた。


 激しい閃光が周囲を包み込み、焼いた。

 大爆発。セブンは跡形もなく、砕け散った。


 ──。


 粉々になったセブンの欠片は、再び一つになろうと動く。

「何カ月も魔力を注ぎ込んだ魔導爆弾でもだめかー。これでも時間稼ぎにしかならない、か」

 不死だけなら、例えば奈落の底にでも落としてしまえば、永久にそこから抜け出してくることはできないだろう。ただ死なないだけで、万能ではない。

 かつて彼をバラバラにし、魂と力を分け与えた後。彼の【不死性】を得たある男を使って実験したことがあった。身体をばらばらに刻み、海にばらまいたこともあった。潮に流され、魚に喰われ……それでも長い年月をかけて再生するも、彼は正気を失っていた。

 最終的に、彼は自ら【不死性】を手放した。それは自然と、元の主へと還ったのだった。

 その力はセブン本人に馴染むのか、再生力が桁違いだった。もっと実験してみたいのに……もう、時間は残されていないようだ。フィーナは溢れ出る血を、ぼんやりと眺めていた。


「あーあ。やっと楽しくなってきたと思ったのになー……」

 まだ、やりたいことはたくさんあったのに。

 でも、まぁ、仕方ないか。本来なら、とっくに尽きていた命だ。


 ……あれ? 本当に、ワタシがやりたかったことって……なんだっけ。どうして、ワタシは……。


 ああ、そうだ。過去の自分と同じ、病で長く生きられない人を助けたかったんだっけ。どうしてこんなに歪んでしまったんだっけ?

 彼に魔剣を渡したのは、自分を止めて欲しかったから?


 思考が巡らない。もう、何も考えられない。フィーナはゆっくりと、目を閉じた。

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