よみがえる、絆

 アレンはアイリスの攻撃を回避するので精いっぱいだった。隙はなく、反撃に転じることができない。反撃できたとしても、アイリスを傷つけることなんて……できない。

 アレンは違和感を覚えた。本気のアイリスはこんなものではない。彼女が本気なら、すでに自分は頭を砕かれているはず。

 無意識に、力を放つことを躊躇っているのだろうか。それでも、このままではいずれ追い詰められてしまう。


 ──その時。

 激しい爆発音が、空気を震撼させた。

 

 一瞬。ほんの一瞬、アイリスの意識が逸れた。

 一方のアレンは、セブンが砕け散る様が見えても、アイリスから意識を逸らさなかった。


 アレンはこの一瞬にすべてを懸けた。

 加速したアレンは、アイリスの懐に潜り込んだ。至近距離からの、雷撃。それは彼女の意識を奪うのには十分なものであった。

 アイリスは、倒れた。


 あとは──。


「あ、危ない! セレナ!」

「ぐ……うぅ」

 魔王が黒い雷を放ち、セレナを打つ。防壁を展開するも、衝撃が貫通し、セレナは傷を負った。魔王は手を止めない。

 セレナを助けなければ。でも、どうやって?

 アレンは迷わず、雷の短剣を投げた。黒い雷が、雷の短剣にぶつかる。


 ──キィィィン。


 雷の短剣が、砕けた。その瞬間。激しい閃光が放たれ、魔王へと向かっていった。 それに合わせて、セレナが極大魔法を放つ。

 爆炎が魔王を包み込んだ。


 セレナは力を使い果たし、地面に落ちる。

「セレナ!」

 限界以上の魔力を放ったために、セレナは昏睡していた。


「ふははは。今のはなかなか効いたな。それで終いか……残念だ」

 魔王が地面に降り立った。ほぼ、無傷だった。

 魔王はアレンを蹴り飛ばす。殴り飛ばす。衝撃が、意識を削る。

 アレンにはもはや成す術がなかった。


「まだ立ち上がるか。加減しているとはいえ、人間は痛みに弱いはずなのだがな」

 魔王が黒い雷を放つ。アレンの身体が焼ける。

「これはオートヒール……いや、違うな。アイテムの効力か」

 アレンは肉体を強化するアイテム、そして自動的に生命力・魔力を回復させるアイテムを事前に使用していた。しかし、この魔王の力の前では意味を成さない。この場でどんなアイテムを合成アイテム・クリエイションしたとしても、太刀打ちできないだろう。


「ん……」

 意識を失っていたアイリスが立ち上がる。


 まだあのニセモノは、諦めていないのか。あんなにボロボロになってまで、どうして戦うのか。

「もう飽きたな。もう、よい。貴様の力なしでも神を打ち滅ぼしてみせよう。これで終わりだ。エクレール、やれ」

「……はい」

 黒雷の連撃。黒焦げになったアレンが、倒れた。

 エクレールは無意識に涙をこぼしていた。


「む。起きていたか、アイリス。そやつの頭を、つぶせ」

 アイリスはよろよろと起き上がり、ハンマーを握りしめた。その手が、震える。

 このニセモノの頭を砕けば、おしまい。そうしたらまた、いつもの日常が……。


「……アイリス」

 アレンが、アイリスの目を見た。そして、ほほ笑む。

 その顔を見たアイリスの動きが、止まる。


 ──。


「……どうして……どうして……」

「何をしておる、アイリス。はやくそやつを」

「あああぁぁぁっ!」

 アイリスが地面を砕きながら、跳んだ。そして魔王にハンマーを振り下ろす。

「ふは……は。魅了を解いたか。なんという馬鹿力……」

 魔王の周囲に張られていた防壁を、アイリスは砕いた。ハンマーの直撃を受けた魔王の頭が、はじけ飛ぶ。

 頭はすぐに再生するも、次の瞬間にはまた消し飛んだ。アイリスの手は止まらない。

「ごめんなさい!!! アレンさん! ごめんなさい!!!」

 正気を取り戻したアイリスは、泣き叫びながら、魔王を打ちつけた。

 まただ。また、あの人を傷つけてしまった。どうして、どうしてこんなにもわたしの心は弱い。


「アレンちゃんを、いじめないで!」

 エクレールの電撃が、アイリスを打つ。しかし、白雪のマナが電撃を弾いた。

「エクレール! そいつはアレンさんじゃない! わかるでしょ!?」

「う……うぅ~! うるさいうるさいうるさい!」

「アレンさん! 思い出させてあげて!」

 アレンは立ち上がり、砕け散り、地面に散った雷の短剣の欠片に念を込める。放たれた雷が、エクレールと繋がる。

 瞬間──アレンの記憶が、想いが、エクレールに流れ込む。二人は再び、共鳴した。


「……アレンちゃん……アタシ、アタシ……どうしよ。アレンちゃんをこんな……うぅぅぅ」

「エクレール。大丈夫だから……また、力を貸してくれる? あいつを、倒そう」

「……うん! ……うん!」


 泣くのも謝るのも後だ。あいつだけは絶対に許さない。エクレールは力をアレンに注ぎ込んだ。


 かつてない力が──湧きあがり、そして、放たれる。

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