魔王、消滅

「貴様のマナは余の中にあるというのに、何故だ。何故再び精霊と……」

 そうか。なるほど、光の力か。魔王は目を細めた。

 やはりこの者だ。すべてを救うカギは、この者の中に存在するのだ。


 ならば全ては茶番であったか。いや、この茶番こそが彼の成長を促すきっかけとなった。結果、彼は目覚めた。ならばそれでいい。

 ただの虚構。ただの役割。紛い物の生命。それがようやく“生”の意味を得たのだ。

 ここからは、その生をすべてぶつけるのみ。


「余を打ち破ってみせよ、希望の光よ!」

 魔王がすべての力を解き放った。闇が周囲を包み込んでいく。

 触れれば確実に死ぬ。アレンはそれを前にしても、恐れなかった。


 アイリスが、エクレールが帰ってきてくれた。もう、何も怖いものなどなかった。


 心に、光が満ちていく。

 地平線に、光が見えた。陽が昇る。新しい朝が、やってくる。

 


 ──幾度の夜を超え、皆で手を取って歩き続けよう。

 光を掴むため。僕たちは征く。希望をこの胸に抱き。


 光のうたが、聞こえる。


 闇を、光が貫いた。


「……ふははは! いいぞ、素晴らしいぞ、この力!」

 力が逆流する。

 魔王は身体が崩壊するのも構わずに、更なる力を放った。それでも光を飲み込むことができない。


 なんという温かな光なのだろう。

 すべてを包み込む、優しい光。


 この光を、ずっと求めていた。

 これこそが、希望。人は可能性を示した。

 あとは──彼に、彼らに託そう。彼らなら、きっと──。


「──ふはは。初めて、心が躍ったぞ。もしこの命がまた巡ることがあれば……余も貴様と同じ道を歩みたいものだ。さらばだ、アレンよ」


 魔王の全身を、光が包み込んだ。

 その身体が、ゆっくりと光の中へと溶けていった。


 アレンはそのまま、天に向かって光を放った。

 天に伸びた光が広がり、そして闇に染まった中央都市へと降り注いだ。

 闇の世界樹は、光に貫かれ、崩れ始めた。


 周囲が激しく振動した。バラバラと、黒い欠片が降り注ぐ。

「なんだなんだぁ!? 起きたばっかだってのに、潰されちまう。逃げるぞ。アイリス、アレンを頼む」

 再生しきったセブンが、意識を失ったままのセレナを担いだ。

 アイリスはアレンを抱え、そして走り出した。



 ──終わった。

 いや、始まるのだ。ここから、新しい世界が。

 マルグリットは、降り注ぐ黒い欠片が彼らに落ちていかないように弾いていった。


 ──アレンは、大丈夫だろうか。あれだけの力を放てば、恐らく──。


 きっと、大丈夫。彼には素晴らしい仲間たちがいる。どんなことが起きても、また乗り越えていけるはずだ。

「……さようなら、アレンさん」


 また巡り合える、その時まで。

 

 彼女は去り行く彼らを見送り、空へと跳んでいった。

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