第14章 中級冒険者試験

第79話 新天地にて

 アレンたちがドワーフの里の移住してから、里の開発は一気に進んだ。

 ここではモンスターたちの居住区を設けず、皆が生活を共にすることにしていた。

 温泉を中心に様々な施設もつくられた。名湯のうわさを聞きつけ、多くのモンスターや人々が集まってきていたからだ。あっという間に温泉街が出来上がった。


 アレンは公にはしていないが、【アイテムクリエイション】のスキルを大いに活用し、”ここでしか手に入らない”アイテムを量産。またドワーフの里では良質な武具が手に入ることから、冒険者たちも訪れるようになっていた。


 ソフィはこの地に集まる冒険者たちのために、ダンジョンを作ることを決めた。

 ミノさんはフル稼働。昼夜問わず働き続けていた。

 ドワーフの里が新たな冒険者たちの街としてその名が知れることになったのは、アレンたちが中央都市を追放されてわずか三カ月後のことだった。


「キースたちがここにいてくれていて、本当に助かったよ」

 アレンは改めて、キースとニコルにお礼を言った。

 二人は中央都市を追放された後。彼らはセブンが言った通りに、ここドワーフの里にやってきた。そして積極的にドワーフたちの手伝いをすることで友好関係を結んでいた。里の長からもその働きぶりは認められているようだった。


「礼を言うのはどちらかと言えばオレたちなんだけどな。まぁ、またよろしく頼む」

「それにしてもニコルちゃん、ちょっと見ない間におっきくなったねー。成長期? しかも美人さん。あれ? おとこのこだよね?」

 エクレールがニコルの周りを飛んで、まじまじと見つめる。ニコルは少し恥ずかしそうにしている。伸びた美しい金色の髪は、風にさらさらと揺れている。

「背だけじゃないぞ。またレベルもあがっている」

 鉱山で発見したレアな鉱石。それを使って生成したアイテムを手にした時に、さらにレベル上限も突破していた。さらにいくつかスキルを発現させている。

 【死神】より解放されたキースもまた、冒険者として成長していた。


「ふむ。頃合いかもしれぬな」

 成長していく我が冒険者たちの姿をみて、ソフィがそう、つぶやいた。



 ──突風が吹いた。

 見上げた先には、飛翔船。ドラゴンバスターズの紋章が刻印されている。

 まさか。アレンはシータの姿を思い浮かべた。


 船が着陸する前に、彼女が飛び降りてきた。

 音もなく着地する彼女を見て、アレンは驚いた。思っていた人物と違ったからだ。


「せ、セレナ!?」

「アレン。会いたかった」

 セレナがアレンに抱きついた。ブルーとレオンと遊んでいたエクレールが雷の速度で飛んできてセレナを痺れさせるも、セレナはアレンを離さない。だからアレンも痺れた。

 遅れて、レオン。セレナの頭に噛みつくも、まるで動じない。そしてレオンも痺れた。

「はーなーれーてー!」

「これはただの、友との抱擁だ」

「ただの抱擁にみえないのー!」

 その間。アレンとレオンは痺れ続けていた。


「セレナ……久しぶり。元気そうだね」

「元気じゃない。アレンがいなくて寂しい。だから来た」

「え?」

 飛翔船が降り立ち、騎士のいで立ちのリックと他数人のドラゴンバスターズのメンバーが降りてきた。


「お久しぶりです、アレン殿」

「リックさん。これはどういう」

「我々は止めたのですが……。セレナ殿が急にここに移住を申請しまして」

「え? ここに移住を!? でも、ドラゴンバスターズの活動は……」

「心配ない。この飛翔船があれば、出撃要請があってもひとっとびだ」

「セレナ殿。この船がいくらするか──」

「副団長から買い取った」

「……えぇー。これ、僕の船なんですけれども」

 まだレオンに頭をかじられているセレナが、リックの方を向いた。

 それは……彼がこれまで見たことのない表情だった。リックはそのまま、しゅんとして口を閉じた。


「というわけだから、帰りは走って帰ってくれ」

「……はい」

「俺たちはどうすんだ、たまたま船に乗り合わせちまった俺たちは」

「まぁ、温泉にでも入って行こうぜ」

「そうだな。いきましょうぜ、リックさん」

 団員たちに連れられて、リックはとぼとぼと歩いていく。


「ちょ……本当にいいの、セレナ。クライムさんの許可は……」

「もちろん得てきた。アレンの傍にいたいんだ。ダメ?」

 セレナに上目遣いで見つめられると、もう、抗うことはできなかった。

「い、いや。その。セレナがよければ……」

「ありがとう、アレン。嬉しい」

 セレナは噛みつかれたまま、電撃を受けたまま、再びアレンに抱き着いた。




「ふくだんちょー。セレナ、どこ行ったか知らない?」

 シータがクライムに訊ねる。表情を変えてはならない。

「さあ」

 クライムは短く、それだけを言った。

「おかしいなー。用事があったのに」

 クライムは丸眼鏡の位置を整える。

 気が付くのも時間の問題か。それまでは……放っておくしかない。散々セレナと揉めて疲れたクライムは、次の書類に目を通した。




「あーあーあ。大変なことになってきたな。この場にカミラがいなくてよかったぜー」

 セブンが離れた位置で騒動を眺めている。

 ちなみにカミラはすべすべのお肌をアレンさまに見せるんだと温泉に浸かっていた。


 それにしても。

 セブンはその建物に目をやった。

 まるで神殿。とんでもないものを建造してくれたなとセブンは思う。


 それは図書館。

 ユーリがミノさんを始めとしたミノタウロスたちに建造させた【世界最大(になる予定)の図書館】だ。その広さは中央都市のもの以上。貯蔵されている書はまだまだ少ないものの、異常な勢いで増え続けている。これもまた、ドワーフの里の名物になりつつあった。

「図書館っていうかこれもはやダンジョンだな」

 館長はもちろんユーリ。今は特別に作らせた書斎で執筆活動をしていた。なんでも出版した本が売れて、連載を抱えているのだとかなんとか。


「ふぅんーすごいねー。びっくりだねー。短期間でここまでの町つくっちゃうんだもんねー。ミノさん、働きすぎてるんじゃないの?」

「前より活き活きとしてるぜ。ここではな」

 セブンは振り返らずに、その声に応える。

「そっかそっか。ブルーは元気?」

「ああ。いまだにてめーに捨てられたことを悲しんでいるけどな」

「仕方ないよね。使えなくなった道具は捨てるしかないもん。でも、セブンちんたちなら拾ってくれると思ってたよ」

「ぬかせ」

 後ろからの声は楽しそうに弾んでいる。

「ま、あんまり目立たないようにうまくやってね。こっちも老人たちの目がそっちに向かないようにしとくけど。ま、あの人たち今それどころじゃないっかー」

「……それは、どういう」

 姿はなかった。


 あいつだけに構っていられない。他のヤツらも探し出さなければ。セブンはある場所へと向かうのであった。

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