第120話 和睦

「アオイさん。本当に、ありがとうございました」

「礼はもう聞き飽きたでござる」

「でも……迷惑をかけてしまって」

 ふむ。とアオイは思いつく。

「どうしても恩を返したいというのであればそうさな。アレン殿、拙者の婿にならぬでござるか?」

「「えっ」」

 アレンとエクレールが同時に言った。

「これもまた古いしきたりで、今はそんなものを守っている家はないのでござるがな。おなごは婚姻の時までおのこに裸を見せてはならぬ……というものがあるのでござるよ。アレン殿には拙者の裸が見られておるからな。これはもう、嫁にもらってもらうしかないのでござるよ!」


「そんなこと、だめに決まっている」


 音もなく、セレナがアオイの後ろに立っていた。気配はなかった。やるでござるな。アオイはにやりと笑った。

 そして続々と集まる、女性陣。

「決めるのは拙者でござる。止めたいのなら、かかってくるでござるよ!」

 そしてアオイたちの戦いが始まった。

 強者との戦いに血を滾らせ、アオイはただただ楽しそうに笑っていた。そしてアレンはただただ、苦笑いを浮かべていた。


 後日。


 鬼族は全面的に降伏。これに対し、ジパングの人間たちは何の条件もつけることなく受け入れた。

 争いはもうたくさんだった。

 お互い、多くのものを失った。いきなりすべてが丸く収まるわけではない。それでも両者は、歩み寄ることを選択した。

 時間はかかるかもしれない。それでも、きっと、分かり合える日が来る。彼らはその日が来ることを、信じている。



「アオイ」

「カエデか」

「……今回は、わらわの負けじゃ。世界には、恐ろしく強い者たちがおるのじゃな」

「拙者よりも遥かに強い者もいるぞ」


 ソードマスター。頂はまだ遥か彼方にある。強くなれば強くなるほど、その異次元の強さを、深さを知ることになる


「わらわもいずれ、世界を見るために旅をする。そして剣の腕を磨き、いつか貴様を倒す」

「いつでもまっているでござるよ」

 二人は笑い合う。こんな日が来ることを、どこかで待っていたのかもしれない。


「あ。アオイさん、そろそろ出発の時間です」

 アレンがやってきて、アオイに告げた。

「あいわかった」


 ふと。ずい、とカエデが前に出た。

「貴方様は……まさか、現人神あらひとがみ様であられますか!?」

「え、あらひと……? いや、違いますけど」

「では、かみなり様の化身!?」

「いや、その、ただの人間です」

 カエデは、アレンから放たれている、大いなる優しいマナに、身も心も委ねてしまいたいと感じた。


 しまった。またひとり増えちゃう。エクレールは焦った。

「貴方様、お名前は」

「え、えっと、アレンです」

「アレン様! わらわを、わらわをお嫁様にしてくださいませ。そして、わらわと新しい鬼族の歴史を……うぐ」

 アオイがカエデの意識を奪った。

「埒があかぬ。さ、帰るでござるよ、アレン殿」

「う、うん」


 ほんの半月後。


 アレンを追ってカエデが中央大陸にやってきたということを、アオイは知ることになるのであったとさ。

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