少女誘拐、監禁犯。その名はジャン

 冷たい石の床の上でジャンは目覚めた。

 ……頭がずきずきと痛む。何があったのか、頭がぼんやりとして思い出せなくなっている。


 ジャンは意識を失う前のことを思い出そうと試みる。

 少しずつ、頭がはっきりとしてきた。ああ、そうだ。に、連行されたんだっけ。


 ──。


「キサマが、ジャンだな」

「あん? なんだおめぇら? その制服……【銀翼団】か?」

 復興途中の中央都市。ここにはあらゆる資源、物資が集まってきている。それを狙う悪人たちに対処するために、冒険者たちが有志を募って結成した自警団があった。その一つが【銀翼団】。背中に刺繍で描かれた銀の翼の入った特徴的な制服を着ていることからそう呼ばれていた。


「少女誘拐、監禁の容疑でキサマを逮捕する」

「──はあっ?」

 もしや、ドロップのことか。確かに『ジャンが少女を家に連れ込んでいる』という話は瞬く間に中央都市中に知れ渡ることになった。あらぬ疑いをかけられる前に、ジャンは正式にドロップと結婚。役所にも届け出を出していた。

 『ジャンはロリコンである』と白い目で見られるも、それは甘んじて受け入れた。


「あのなぁ、オレとドロップのことなら役所で確認──」

「問答無用」

 黒い髪の男がサーベルを抜いた。その眼光は狼を思わせる。

 こいつ、相当できるな。一瞬の隙が命取りになる。ジャンは目を逸らさずに向かい合った。


「ジャンさん!」

 ドロップがジャンを守るように、その前に立った。黒い髪の男の鋭い眼差しをまっすぐに受けても、彼女が怯む様子はなかった。

 銀翼団の団員たちは戸惑っていた。聞いていた話と違う。どういうことだ。そんな声が聞こえてくる。しかし、サーベルを構えるこの男の表情だけは変わらない。


「……ドロップ。大丈夫だ。こいつら、何かを誤解しているだけだ。ちょっと行って、疑いを晴らしてくる。ドロップはこのことをソフィ様に知らせてくれ。いいな」

 ドロップはジャンの方に向き直った。その表情を見た後で、彼女は頷いた。

「賢明な判断だ。連行しろ」

 黒い髪の男はサーベルを収めて他の団員たちに指示を飛ばした。ジャンは手錠をかけられて、どこかへ連行される途中で後頭部を殴られて、意識を失い──気がつけばここにいたのだった。


 こつり、こつり、と部屋の外の足音が近づいてくる。ガチャリ、と扉が開いて現れたのは──。

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