見た目と職が一致しねぇ!

 ダンジョンはこの居住区の一番南の端っこに創られているという。

 おれたちがフィーナについていくと、人間の冒険者らしき2人がダンジョンの入り口らへんで立っていた。

 魔法使いっぽい男と、アーチャーっぽいやつ男、2人。パーティの後衛担当って感じだな。こうなるとミノさんとオレが前衛で、フィーナが補助役ってトコか。


「ごめんね~! お待たせ! 今日はよろしく!」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 魔法使いの男はにこやかに言ったが、アーチャーの男は無言のままだった。表情も険しい。特におれたちを見る視線が鋭い。敵意むき出しだな。

 無理もない。冒険者にとっておれたちは狩る対象でしかないのだから。


「フィーナさん、一つ確認なのですが……このダンジョンに、モンスターはいるんですよね?」

「うん」

「その、そちらのモンスターの方々の仲間……なんですよね」

「うん」

「遭遇したら、戦うんですよね」

「うん」

 会話にならねぇ。そこでミノさんが割って入る。


「このダンジョンにいるのは我らの仲間だが、精鋭を厳選してある。適度なところで逃げるように指示してある。あくまで今回は、我らモンスターとお前たち人間がパーティーを組んで冒険を成功させられるかどうかのテストだ。気にせず戦ってくれ」

 魔法使いの男は目を丸くした。ミノさんがあまりにも流暢に人間の言葉を話し、そして理性的なことに驚いたのだろう。おれも驚くわこんなん。


「それじゃさっそくいってみよー!」

 フィーナがずんずんとダンジョンに入って行ってしまったので、おれたちもそれに続く。あ、紹介とか何もない感じっすか。


「フィーナはもともと王都で学者をやってた人間だ。この中央都市でもほぼ研究室に引きこもって、ひとりで何かを研究したり論文を書いているらしい」

 ミノさんが言う。

「つまり、コミュニケーションってやつが取れない人間なわけか」

 ミノさんは頷いた。

 

 おれたちの会話に、魔法使い風の男が割って入ってくる。

「自己紹介が遅れました。私はクルス。こんなナリをしていますが、暗器使いの元殺し屋です」

 魔法使いの男じゃなかった。クルスと名乗った男は、黒いローブの下の暗器をじゃらりと見せてきた。元殺し屋って……やべーやつじゃねーか。

「で、こっちの狩人っぽい恰好をしたのが、私のパーティメンバーの一人、風の魔法使いのゲイルです。マジックアローを得意とします」

 ゲイルはふん、と鼻を鳴らした。って魔法使いかよ。

「我はミラルドノース・アンダレシア・クローキス・ファルト……」

「ちょ、長い長い長い。あんた、ホントはそんな長ったらしい名前なのか」

「ミノさん、はフィーナが勝手に名付けたものだ」

 ミノタウロスだからミノさんなのか、それとも『ミ』ラルド『ノ』ースからのミノさんなのかわかんねーけども。

「まぁ、確かにお前たちにとっては呼びにくい名だ。好きなように呼ぶといい」

「じゃ、じゃあ、ミノさんで」

「ミノさんで」

 さりげなくゲイルも頷いている。

 満場一致。おれたちの心が一つになった瞬間だった。


「ちょっとちょっとー! みんな、おっそいよー! はやくはやく!」

 フィーナの声が遠くから聞こえる。おれたちが向かうと、そこには驚きの光景が。


 フィーナが青いゴブリンのようなモンスターを拳でぼこぼこにしていたのだ。

「ふぃ、フィーナしゃん……もうかんべんしてくんろ」

「あ、ごめんねー。手加減したつもりだったんだけどー」

 青いゴブリンは泣きながらダンジョンの外へと逃げて行ってしまった。


「え、あんた、武道家なの?」

「え? 違うよー! ほら、研究室にこもってると体なまっちゃうでしょ? 健康にもよくないし! 運動は日課! 効率よく身体を鍛えて、健康で元気に! 研究は元気じゃなきゃできないしね!」

 しゅっ、しゅっとフィーナは風のように拳を走らせる。


 な、なんなんだこいつらそろいもそろって。見た目と中身が一致しねぇじゃねぇか。

 おれも実は騎士じゃなかったりして。

「さ、はりきっていきましょー!」

 ずんずんと進んでいくフィーナを、おれたちは慌てて追いかけるのであった。

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