第25話 邪悪な気配

 ドワーフの里に向かう途中。

 僕たちは何度かモンスターに遭遇した。しかしダンジョンの中と違い、彼らに敵意はなかった。警戒はしているものの、こちらを襲撃してくることはなかった。


「そういや、ドワーフの里の近くにゃ温泉があったっけな。傷によく効く」

 セブンがふと思い出して、そんなことを言った。

 温泉、か。居住区に作ってもいいかもしれないな、と僕は思った。

 中央都市には温泉施設はいくつかあるものの、モンスターたちは入ることができないのだった。帰ったらソフィさんに提案してみよう。


「あれ? あなたたち、人間……ん? 人間、だよね。こんなところで何してるの~?」

 ばさばさっと降りてきたのは、ハーピーだった。

 ハーピー。またはハルピュイア。半人半鳥のモンスターだ。

「おれはこういうもんだが」

 セブンが兜の面をぱかっとあける。

「きゃああっ! おばけ!」

 なんか、みんなリアクションが似たり寄ったりだなぁ。僕はおばけにはあったことがないけれど、たぶんおばけよりもヘルハウンドの方がよっぽど怖いと思う。


「やめなさいって」

「あばばばばb……き、きく~この刺激、クセになりそうだぜー!」

 エクレールの電撃を受けて、セブンが喜んでいる。

「あー、びっくりした。あなた、モンスターだったのね」

「おう! おれたちはドワーフの里に向かっているんだぜ!」

「ドワーフの里? あー、今はいかない方がいいかもよ。ぴりついてるから」

「ぴりついてる?」

「なんでも、鍛冶の材料の石が採れる鉱山に、とんでもないバケモノが棲みついちゃったらしくて。それで仕事ができないんだってさ。……あら? あなた……」

 急にハーピーが僕に顔を近づけてきた。

「……なんだろ。すごい安心するにおいがする」

「ちょ……顔、近い」

「アタシのアレンちゃんに近づかないで!」

 エクレールがばちばちと雷を発する。

「きゃ! ごめんごめーん。だっていいにおいがするんだもの。ね、おにーさん、どこから来たの? 中央都市?」


 僕は中央都市のモンスター居住区のことを話してみる。うまく勧誘できれば、何か力になってくれるかもしれない。

「へー! 本当に居住区つくったんだ! それじゃ、いってみよっかな。最近ここらへんでエサとれなくなっちゃったし。それじゃ、おにーさん、またね! 居住区でまってる!」

 ハーピーはバサバサっと中央都市に向かって飛んでいった。


「……僕、なにかにおうのかな」

 自分ではわからないけれど、モンスターが好むにおいを発しているのだろうか。

 あ、もしや加齢臭。年齢的なものは……仕方ないかなあ。

「でーじょーぶだ、アレン。フィーナみたいなくさい系のにおいじゃねーから」

「彼らは自然のマナと共にあります。アレンさんのマナは、精霊に好かれるほどのもの。心地よいのでしょう」

 これまで黙っていたユーリが口を開いた。しかしその表情は険しい。


「どうかしたの? ユーリ」

「私たちが向かう方角から邪悪なマナを感じます。先ほどの方が言っていた、鉱山に棲むというバケモノから発せられるものでしょう。危険です」

「あー、なんか嫌な気配があるなー。ここらでハーピーの獲物がいなくなったってのも、ソレが原因なのかもな」

 僕たちが向かう方向に、大きな山がある。その山頂は、黒い雲で覆われている。


 僕も感じた。黒い気配を。


「それでも行きますか?」

 ユーリが僕に問う。

「……行こう。僕たちにも出来ることはあるかもしれない」

 ドワーフたちが困っているのなら、力になりたい。何ができるのかわからないけれど……。


「アレンさんはお人よしですね。しかし、それがあなたの中のマナの導きであるならば、従いましょう」

 ユーリが少しだけ笑う。



 そして僕たちは、ドワーフの里へとたどり着いた。

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