”外界”から来た人間
集落の長の小屋の中。
傷だらけの人間の男が寝かされていた。
人間の年齢にして、20歳前後くらいだろうか。
「人間なんて、殺してしまえばいい」
「ここで殺したら世界樹様にケガレが……」
「そもそも人間なんかがここにいることがけがらわしいのでは。やはり殺そう」
「ちょっ……ユーリ様の前で殺す殺すって……」
ルーが恐る恐る私を見ている。集落の人々の目が私に注がれる。彼らの中にも納得していないものもいる。それはそうだ。私もまた人間。人間であることは捨てたものの、見た目は人間そのもの。ここに在ってはならない存在。
「ユーリ様。この者はいかがすればよろしいでしょうか」
そうした偏見を捨てている長は、私に友好的だ。やわらかい口調で私に投げかける。
私は人間の男の近くに座り、手をかざす。マナは弱々しい。けれど、清らかだ。
「……生かして、帰しましょう。ここから出る時に記憶を消します」
「……は」
「この決定に納得しない者もいるでしょう。しかし、これは“大精霊”の決定です。それに先ほど誰かが言っていたように、ここで命を奪えば世界樹様にケガレが及ぶことになります」
「このまま治療せずに、天命に任せるというのは……」
「治療は精霊の意思に任せます。あとはこの者の生きる意志次第」
私はある精霊を人間の男に放った。
意思に任せると言ったものの、私が放ったのは癒しの精霊だった。少なくとも、この男の命は助かるだろう。
助ける義務も義理もない。
これは……私の好奇心だ。外から来た人間。この男の話を、外の世界の話を聞いてみたいと思ってしまったのだ。本に書かれていることではなく、現実を知る者の話を……私は聞きたかったのだ。だから、生かす。それだけだった。
「明日、また様子を見に来ます。それまでに意識を取り戻したら、またルーを私のところに遣わせてください」
「なんでまたおいら! えー……はぁい、わかりました」
私は少しだけ笑う。
しかし、なぜ……。
外界の人間がやってくることができたのだろう。
何か異変が起きている?
調べなくては。私は世界樹様のところへと戻った。
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