冒険者
「アレンはまだ眠り続けたままか」
寝室から出てきたユーリに、セブンは声をかけた。
「あれから数日経つのに……熱が下がりません。生命の源であるマナの大半を失ったのです。すぐには動けないでしょう」
「そうか……」
中央都市は黒いマナに覆われ、そして巨大な樹となった。
それは漆黒の世界樹。さらに成長を続け、天へ、天へ向かって伸びている。
漆黒の世界樹は結界そのものであり、もはや外部から侵入することは叶わない。
このまま世界が終わるのを、見ていることしかできないのだ。
世界樹なら、あるいは……。ユーリは思ったが、世界樹はこれも『定め』として受け入れるだろうと感じた。
「セブンさん、どこへ……」
「おれの一族の問題みてーだからな。カタをつけにいく」
「……あなたひとりでは無理です」
「無理でもなんでも、やつらに対抗できるのはおれくらいなもんだろう」
そこに、ジャンがやってくる。
「この槍の力も必要だろうよ。付き合うぜ」
このままでは、ドロップが帰ってくる世界がなくなってしまう。彼女が笑って過ごせるように、この世界を守る。それだけのために、ジャンは戦うことを決意していた。
「やっぱり、最後もおまえと二人か」
「そういうこった。ま、最後にするつもりはねーけどな。よろしく頼むぜ、相棒」
ジャンの軽口に、少しだけ励まされるセブンであった。
フィーナを倒し、力の一部を取り戻すことができれば……あるいは。
それにレイヴン。彼からも、自分の力を感じたセブンであった。『あの時、あの場所』に、レイヴンがいたという記憶はない。あの中の誰かから力を奪ったのか……それはわからなかったが、とにかく彼からも力を取り返せれば、あの魔王に刃が届くかもしれない。
「……僕も、行きます」
「……アレン!?」
看病していたセレナとリィンに支えられ、アレンが寝室から出てきた。
「アレンさん、その身体では無理です」
「……助けにいかなきゃ。アイリスを、エクレールを……」
魔法の力は失った。あるのは雷の短剣だけ。これで何ができるというのだろう。
それでもアレンは、立ち上がり、歩き始めた。
「おめぇにできることはなにもねぇ。おとなしく寝てろ。エルフにリィン、そいつを死なせたくないなら、ベッドにでも縛りつけておけよな」
「そう。今のお前ではお嬢様を救えない」
気配なく、部屋の隅にいたその男を、皆が一斉に見た。
「……ローレンス、おじさん」
「久しぶりだな、アレン」
以前に会った時、アレンは暴走しており、その時のことを覚えていない。後にアイリスから話を聞いて、ローレンスが彼女の家の執事をやっていたことに、アレンは驚くことになったのだった。
「どうしても行くというのなら、この
「……おじさん。僕、やります」
「……ほう。後悔することになるぞ」
アレンとローレンスは外に出た。
「エルフ、絶対手を出すなよ」
ジャンが、今にも飛び出しそうなセレナを制止した。
言われなくても、手を出したくともだせないセレナであった。なぜならローレンスはアレンに似すぎている。アレンの父親とローレンスは双子の兄弟。瓜二つだという。故にアレンとローレンスが似ているのも当然のことだった。
ローレンスは容赦なく、雷の魔法を放つ。アレンは雷の短剣で防御を試みるも、防ぎきれずに弾き飛ばされる。
間髪入れずに追撃。ローレンスの拳がアレンの右頬にめり込む。
アレンは地面に転がった。
「
背を向けようとしたローレンスに、雷の短剣から放たれた雷撃が奔る。ローレンスはそれを掴み、地面に落とした。
アレンは、震えながら立ち上がる。
無力さに打ちひしがれ、涙しながらも、なお立ち上がる。
「……どうして、そこまで。お前にはもう、何の力も残っていないというのに」
ローレンスは目を見開いた。
アレンが、笑っていたからだ。
「……そう。僕には何の力もない。何の力もなかったんです。ここまでが、うまくいきすぎていただけ。これは……何も持たない僕の……
諦めない。それが、僕だ。
そうやって、僕は前に進み続けてきたはずだ。
力が湧き上がる。まだ、戦える。
「──冒険者。そうか、とうとう成ったのだな、アレン」
しかし、想いだけでは超えられない現実がある。何度でも立ち上がるなら、何度でも沈めるまで。彼はもう、これ以上戦うべきではない。
「【
ローレンスの全身を雷がバチバチと奔る。雷そのものとなったローレンスがアレンを撥ね飛ばす。
アレンは雷の短剣を握りしめる。その想いに共鳴するかのように、雷の短剣は力を発揮する。
雷と雷が、ぶつかり合う。
(……殺すつもりでやらなければ、止まらないか)
ローレンスはさらに強大な魔法を放つため、力を溜める。
そして。
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