戦いの時

「やれやれ、困ったもんだな」

 ローレンスの前に、セブンが立ちはだかった。続いて、ユーリ、そしてセレナ。

「ホントです。アレンさん、何も持たない……なんて言わないでください。あなたには仲間がいる、そうでしょう?」

「ユーリ……」

 そこに、リィン、キース、ニコル、ゲイルも続く。



 激しい風が吹いた。


 声が聞こえたような気がして、アレンは空を見る。

 そこには十数隻の飛翔船があった。

「アレンさーーーーーーーーーん! ドラゴンバスターズのみんな、連れてきたよ!」

 シータの大きな声はよく通る。


「アレン、借りを返しにきたぞ」

 ゴッツがぞろぞろと、冒険者たちを引き連れてやってきた。

「ぼくたちもわすれないでね!」

「がう!」

 ブルーとレオンが、モンスターたちを連れてやってくる。


 アオイは、アレンのもとに続々と集まっていく者たちの姿を見て、心を奮わせた。

「これもまた、強さなのでござるな」

 ──絆。

 個の強さを極めるためだけに道を歩んできた彼女には、知り得なかったものだ。

「認めたくはねーが、これを目の当たりにしたら、希望を抱かずにゃいられねーかな。ほんと、認めたくねーけど」

 ジャンが口をとがらせていうので、アオイは少し笑ってしまった。


「アレンよ。彼奴らから中央都市を取り戻すぞ。クライムのやつ、一発ぶん殴ってやらんとな」

 ソフィがドワーフの里に住む冒険者たちを連れて、加わった。そこにはルシードの姿もある。


 ローレンスはふっ、と肩の力を抜いた。

「これが、お前のちからなのだな、アレン」

「いいえ……みんなの力です」

 そうアレンは言うが、ローレンスはその渦の中心に彼があることを感じていた。

 彼が『行動』した結果が、今、ここに繋がったのだ。


「アレン。お嬢様を……頼んだぞ」

「はい! 必ず……助けてみせます」

 アレンは力強く、頷いてみせた。



 ──きゅるるる。


「!」

 この、鳴き声は。

 アレンは驚き、空を見上げる。

 飛翔船に乗るドラゴンバスターズたちがざわめき、臨戦態勢を取る。


 レッドドラゴン【ルビー】がそこにいた。


 “思念”が、アレンに伝わってくる。


『調停者。光の子。世界を正常なものに戻すため、あなたの力を借りたい。我々とあの闇が衝突すれば、世界は完全に崩壊することになるでしょう。二度と生命の巡らない、死の世界となります』


 魔王はドラゴンを『裁定者』と呼んだ。


 それは人体で考えれば、体内に入った病原菌を攻撃し排除する『免疫』機構のようなものだと、ルビーはアレンに語る。

 世界の『ことわり』を乱すものが現れた時、それらを排除し、正常に戻すための存在。それが、ドラゴン。


 クライム──レイヴンは、いずれその存在が自分たちの計画の妨げになるものと考え、その対抗手段としてドラゴンバスターズを組織したのであった。


『わたしが、結界に穴を穿ちます。あなたたちはそこから闇の内部へと侵入し、排除を試みてください』


 それが失敗に終わった時。

 世界中からドラゴンが集結し、滅びの時が始まることとなる。


 アレンは皆にルビーからの思念を伝えた。

 準備を整え、飛翔船に乗り込む。



 アレンはルビーに準備ができたことを伝える。


 ルビーの身体が紅く、紅く輝く。口を大きく開け、そこから──凄まじい熱線が、中央都市の方向に向けて放たれた。


 黒い世界樹の表面に、大穴が穿たれた。



 ──出航。

 飛翔船は最大速度で、かつての中央都市へと向かって飛んでいく。




 決戦が、始まる。

 


 

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