第19.5章 幕間の章
アレンとゴルドの決闘(前編)
「キミにッ! 決闘をッ!! 申し込むッ!!!」
アレンは周囲を見渡したあと、自分しかいないことに気づく。
まばゆい黄金の甲冑を身に纏ったこの男を見たものは、決してその名を忘れることはないだろう。上級冒険者、【
「僕と、ゴルドさんが、決闘を? どうして」
ルートの町での一件から、彼とは一度も顔を合わせていないアレンには、その理由がさっぱりわからなかった。
「キミがぼくより目立っているからだ!」
「へ?」
どう見てもゴルドさんの方が目立ってるのに。アレンはそう思った。
「キミが中央都市を追放されることになったあの一件! あれが良くも悪くもキミの知名度をものすごくあげた! しかも最近、中級冒険者試験を突破したというじゃないか! ぼくのアイリスも一目を置いているなんて……ぼくは認めない!」
「──ぼくのアイリス、とは聞き捨てならないわね。いつからわたしは貴方のものになったのかしら?」
いつの間にか、怖い目をしたアイリスがゴルドの後ろに立っている。しかしゴルドは動じない。
「これはアイリスを賭けた、男と男の勝負! もちろん、逃げるなんてことしないよな!?」
「わたしを無視して話を進めないで。アレンさん、こんなの無視していいから」
「──わかりました。受けましょう」
「ちょ」「そうこなくては!」
ここで断ったとしても、この感じだとしつこくつきまとわれる気がするアレンだった。それはさておきにしても、自分の今の実力が上級冒険者に少しでも通用するのか、彼はそれが知りたかったのだった。
「それで、なにで勝負するんですか?」
「ふふん、一騎打ちさ!」
完全直球勝負。つまりはバトルである。
「我が愛、アイリスよ! 立ち合いを頼む!」
「……アレンさん。本当にやるの? こんなのと」
アレンは頷き、雷の短剣を抜く。その真剣なまなざしに、アイリスはドキッとして何も言えなくなるのであった。
「──どちらかが意識を失ったり、戦闘不能の怪我を負ったと判断したらそこで試合は終了とする。アイテムの使用は厳禁。己のスキルと魔法のみで勝負するように。それでは──はじめ!」
最初に仕掛けたのはゴルドであった。
彼の光の魔法は範囲が狭い。しかし、光の速度は不可避。発動すればそれで勝負はつく。
「【サンダーボルド】!」
「ぐわー!」
ゴルドは気づいていなかった。雷もまた、不可避の速度。そして彼が身に着けている金は電気を通す。雷の魔法の直撃を受けて、ゴルドは地面に倒れた。
「……しょ、勝負あり。そこまで」
「……」
アレンが雷の魔法を使うと知っていながら、なんで対処してこなかったのだろうか。アイリスにはゴルドの思考が理解不能だった。
アレンの頭の上で、エクレールは退屈そうにあくびをしていた。
「……気を取り直して、次の勝負は……」
意識を取り戻したゴルドがよろよろと言った。
「ちょっと。今ので勝負はついたんじゃないの?」
「言っていなかったかな? これは三番勝負なのだよ!」
「いや言ってない言ってない」
「次の勝負は! ダンジョン攻略タイムアタックだ!」
「そろそろわたし、怒るわよ」
まぁまぁと、アレンがアイリスをなだめる。
ゴルドは気にすることなく、その概要を話した。
それは初級ダンジョン【ディ・センバ】にのみ存在するという【翡翠の花】というレアアイテムを先に持ってきた方の勝利とする……という内容だった。
「翡翠の花……滅多に手に入らないレアアイテムじゃないの。それに初級ダンジョンの中で一番難易度の高いダンジョン。ソロでは難しいわよ……」
しかもゴルドはすでに【ディ・センバ】を攻略している。アレンが圧倒的に不利だ。アイリスはゴルドにハンデをつけるように言おうとした。
「ふふふ。アレンくん、怖気づいたかい? それなら、勝負を降りるといい! この勝負、ぼくの勝ちということで! は~っはっはっは!」
「──やります」
アイリスの拳がゴルドに振り下ろされる寸前で、アレンは言った。
「ほ、本当にやるのかい!? やめるなら今のうちだよ……!」
まさかこの勝負を受けるとは。ゴルドは焦った。
「どこまでやれるかわかりませんけど……挑戦します!」
段階をすっ飛ばして中級冒険者試験を受けたアレンではあったが、もともとは初級ダンジョンすべてを攻略するつもりでいた。そのため、各初級ダンジョンにどのような特徴があるのかは調査済みであった。
翡翠の花は最下層までいかなくとも入手することはできる。下の階層ほど入手できる確率はあがるものであるが、
アイリスはアレンの目を見て、すでに火がついていることを知った。
「ふ、ふふふふふ。その意気やよし! しかし、冒険者としての格の違いを思い知ることになるだろう……は~っはっは!」
こいつは一度、本当にぼこぼこにしないとダメかもしれない。アイリスは勝敗はどうあれ、ゴルドをぶちのめそうと決意するのであった。
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