第21.5章 ソフィとアイリス

ソフィとルシード(前編)

「わぁ! ソフィちゃん、お人形さんみたい~。か~わい~」

 エクレールがソフィの周りを飛びまわる。

「……ごにょごにょ」

 ソフィは顔を真っ赤にしてうつむき、何か言っている。

「デート、うまくいくといいね!」

 ソフィはこくん、と頷いた。

 

 天界にいた頃。地上の人間たちを観察することだけが楽しみだった。天界には娯楽などなく、そもそも超常的な存在である彼女たちにとって、何一つとして人間の営みを取り入れる必要はなかった。


 ソフィは人間たちを観察していくうちに一つの夢を抱くことになる。

 それは『恋愛』することであった。


 どうして人間は愛し合うのか。

 愛し合うということが、どうしてあんなにも幸せそうなのか。理解できないものの、うらやましいと感じていた。

 人を好きになる気持ちがどういうものなのか、ソフィは知りたかった。愛されることの喜びがどういうものなのか、ソフィは知りたかった。

 それはきっと素敵なことなのだと、ソフィは信じていた。


 人間に転生し、ついにその時は訪れた。これは想像以上に衝撃的なものだった。

 ソフィはルシードに『ひとめぼれ』した。

 そんなことが起こり得るとは思いもしなかった彼女は、嬉しく思いつつもどうしたらよいのかただただ狼狽した。

 そしてこともあろうか、エクレールやアイリスに相談を持ち掛けるのであった。うまくいく気がしねーなーと、遠目で見ていたセブンは思ったものの、オモシロそうなので静観を決め込むのであった。


「ソフィちゃん可愛いから、押せばいちころよ! さぁ、ルシードを誘いにいって!」

「あうあう……わし……じゃなかった、わたし」

「これはダメね。ちょっと連れてくる」

 そういって、アイリスはギルド酒場を飛び出していった。

「連れてきたわ」

 ものの数秒。

 そこらへんを歩いていたルシードの首根っこを片手で掴んで、アイリスは戻ってきた。


「えっと、これは……なんだ?」

「えっとね、ソフィちゃんがお話があるんだって!」

「ソフィ様が……? 何でしょう」

 ひょいっと降ろされたルシードは、アイリスの怪力に畏怖しつつソフィに訊ねた。

「そにょう……えっと、ちょっと……そにょう。か、買い物につきあって欲しいのじゃ! です!」

 よく勇気を振り絞って言った! とエクレールは心の中で拍手をした。

「買い物……はい、いいですよ。荷物持ちとして役に立ちましょう」


 こうしてあっさりとルシードとのお出かけが決まり、ソフィは内心飛び上がるほど喜んだものの、動きはさらに硬化していくのであった。


 どうなる、ソフィちゃん!?




 ──。


 がちがちと動くソフィを遠くにみて、エクレールは「ストーンゴーレムみたいだなぁ」と思った。


(……きこえますか……きこえますか……ソフィちゃん……今、あなたの……心に……直接……呼びかけています……)

(エクレールか!? 助けてくれこれからどうすればいいのじゃ! うをー!)

(落ち着いて落ち着いて。んー。ルシード、まだこの町のことよくわかっていないから、お買い物がてら案内してあげればいいんじゃないかな)

(そ、そうか。やってみる!)


 案の定、グダグダだった。

 ソフィは空回りし、わたわたしては転んでいる。


「大丈夫ですか、ソフィ様。やはりまだ体調が……」

 ルシードは心底心配していた。

 マガツボシの一件でかなり消耗し、衰弱したものの、今はとっても元気なソフィなのであったが、どうみても様子が異常だった。

「だ、だいじょうぶですのじゃ」

 そうは言うものの、ソフィは涙目だった。

「……そうか……俺を元気づけようと誘ってくれたんですね。無理をさせてすみません」

「ち、ちが……違くはないけど、違うというか……ええぃ、ルシード、さん。どこか行きたい場所は……ないのですじゃ?」

「行きたい場所……」

 ふと、ルシードは思い立つ。


「ソフィ様、ちょっと付き合ってもらっても?」

「う、うぬ! どこへでも!」

 ルシードはぴぃっと指笛を鳴らした。

 

 大きな影が二人を覆う。

 風が吹き荒れ、それは二人の近くに降り立った。

「これは──飛竜か! 珍しいのぅ!」

 飛竜。小型のドラゴン種であるものの、ドラゴンとしての血は薄く、人間には友好的である。

「こいつは俺のダチです。名前は、クーです」

「クーか、よろしくな!」

『クー!』

 なるほど、クーと鳴くからクー。そのままか。ソフィは少し笑った。

「こいつに乗って、ある場所に行きます」

「ある場所?」

「ついてからのお楽しみということで」

 二人は飛竜のクーの背中に乗った。クーはひと鳴きすると、バサバサと空へ飛び立った。

 エクレールはそれを見送り、手を振るのであった。



 グッドラック!

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