紅蓮
集落の方角から黒煙が上がっている。
異変が起きているのは明らか。私たちは集落へと急いで戻った。
──炎が。血の赤が……広がっていく。
私は口を覆った。
森人たちが倒れている。息はない。
ルーは激しいショックを受けてその場に崩れ落ちる。
マナが感じられない。
みんな、みんな……死んでしまっている。
「どうして……こんなことを。冒険者……グレイ」
炎の向こうで、彼は笑っている。
「ひゃははは! おとなしく宝モンの在り処を教えれば生かしてやってもよかったのによ。誰もしゃべりゃしねえ。あんたが結界を張っていたんだろ? こんだけ血が流れたおかげか、結界の力が弱まったんだろうな。見つけたぜ」
冒険者グレイの手には、緑色に輝く球があった。
「そこの獣人のガキがここに秘宝があるってしゃべってくれていたおかげで、探す手間が省けたぜ。無駄に広いからな、この大陸は」
ルーは愕然として震えている。
グレイの口は止まらない。
ああ、右眼が、右眼が熱い。
「苦労したんだぜ、ここまで来るのによー。仲間がみんな死んじまったぁ。へへへ。世界樹があるっていう幻の大陸! そこに存在する世界樹の欠片! こいつは高く売れるだろうなぁ……ひゃははは」
すでに冒険者たちにはこの大陸のことが知れ渡っていたのか。この冒険者グレイがたどりつけていなくても、いずれは……。
「世界樹の元へは行かせない」
「おっと。別に世界樹に用はねぇよ。ただの馬鹿でかい樹だろ? せめて実でも成るんだったら、そいつを頂いてもいいんだが、そうじゃねぇんだろ? せいぜい数千年に一度、こいつを落とすくらいだってな。唯一命乞いをしたこいつが教えてくれたぜぇぇぇ」
冒険者グレイは近くの森人の死体にグサリと剣を突き刺した。
「いやあ。あんたが俺を助けるって判断をしてくれてなきゃ、死んでたところだ。ありがとな、世界樹の護りびとサマよ。ひゃははは!!」
青い炎が奔る。
「っとぉ、あぶねぇ! さすがは護りびとサマ。まともにやりあったら俺に勝ち目はねぇな! あばよ!」
──転移魔法! やられた!
すぐにマナを探るも、すでにこの大陸から姿を消しているようだ。
ポータルを設置されていたらまずい。しかし、その存在は感じられない。
「してやられたな、ユーリ」
右眼の中で、そいつはかっかっかと笑う。うるさい。うるさい。うるさい!
「とうちゃん……かあちゃん……みんな……うわぁああぁあぁぁあああああ!!!」
黒煙が立ち昇る、さらにその上には分厚い雨雲。
ぽつり、ぽつりと大粒の雨粒が落ち始めていた。
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