第35話 降魔

「その必要はないぞ、キース!」

 やってきた彼らを見て、カタリーナは顔を歪めた。


「ソフィ……様」

 ソフィだけではない。そこには『仲間たち』がいた。

「ソフィ様。ニコルを助けてきました」

 ニコルを抱えたクルスがやってきて言った。

「おお、クルス。ご苦労さまなのじゃ!」

「いえ。暗殺者ギルドの面々のおかげです。気配を悟られることなく、事を運ぶことができました」

 いつの間にか、黒装束の男たちが音もなくそこにいた。

「これで依頼は果たしたな」

「ありがとうございます」

「こちらは金さえもらえればいい。しかし……クルス。こちらに戻ってくるつもりはないのか」

「はい。今の私は冒険者ですから」

「そうか。さらばだ」

 黒装束の男たちは、やはり音もなく消えていった。


 【サイレント】

 そのスキルは、完全に気配を消す、暗殺者にとっては必須スキルとも言える。

 よほど強力な感知スキルでもなければ、その気配を察知することはできない。仮に察知することができたとしても、その時にはすでに命を奪われているだろう。


『あぐっ……ああぁぁ』

 カタリーナが、苦しみに悶える。指輪の紅い光は小さくなっていた。


「……キースにスキルを授けたあの時。ほんの一瞬放たれた邪気がちと気になってな。ちょっとした保険のつもりで邪気払いをかけておいてよかったわ。このまま封印してくれようぞ」


 ──さない。


 ゆる、さない。

 ゆるさないゆるさないゆるさない!!!


 ヨギが白目を剥き、口から黒い何かが噴き出してくる。ヨギの身体はその場に倒れ落ちる。

「おっ。おれの親戚か何かか!?」

 セブンが何故か少し嬉しそうに言った。

 黒い霧のようなものの中に、ガイコツが浮かんでいる。ガイコツは大きな鎌を持ち、カタカタと笑う。それはまるで、物語の挿絵に描かれる死神そのものだ。ユーリはそんなことを思った。

「人間の思念がここまではっきりとカタチになるとは。この方はもともとは優れた魔法使いだったようですね」

 そうだ。キースは過去を思い出す。


 カタリーナと出会ったのは、ダンジョンだった。怪我をしていた魔法使いの彼女を助けたのが始まりだった。そこか二人で冒険を重ね、仲良くなり、そして──。


「ガイコツキャラは二人もいらねー! でも、こんなんどうやって退治すりゃいいんだ」

「私に任せてください。皆さんは周囲にいる、操られた冒険者たちを」

「おうよ!」

 冒険者たちが一斉に襲い掛かってくる。

 中級冒険者レベルの者たちもいる。理性を失っているとはいえ、その身体能力はかなりのものだった。

 アレンは雷の魔法で、彼らを気絶させようと試みる。しかし。

「……全然ひるまない!?」

 雷を受けても、彼らは前進する。

 痛みを感じない死者の軍団のようなものか。セブンは戦いながら、なんだか懐かしいと感じていた。


「身体がぶっ壊れるのもお構いなしだ、こいつら! 縛り上げて動きを封じよう!」

 ゲイルが風の力で、持ってきていたロープで冒険者たちを縛り上げていく。

「こんなこともあろうかと、ロープを大量に購入しておいてよかったわ」

 ソフィがえっへんと胸を張るも、誰も彼女を褒めたたえる余裕はない。

 ロープでガチガチで縛られてもなお、自身の骨を砕いてまで動こうとする冒険者たち。彼らを止めるには、やはり根本を叩くしかない。


「魔法が使えるものはユーリの援護に回れ!」

「敵の数が多すぎる!」

「大丈夫じゃ! そろそろ援軍が来る!」


 ソフィが言った直後。ぞろぞろと別の冒険者たちがやってきた。

「うわ。なんだこいつら。目がやべぇな」

「ソフィ様、こいつら、やっちまっていいのですか?」

「うむ。殺さぬように、縛り上げよ」

 それは、南の大ギルドに移籍した、かつての北の大ギルドの冒険者たちだった。


 ソフィはここでも金を使った。自分の持つわずかな『財産』を担保にあちこちから金を借り、それを報酬として、彼らに『クエスト』を発注したのである。


「魔法が使える者は、あっちを援護してくれ!」

「うわ、なんだあれ!? 新手のモンスター!?」

「いや、死霊とかアンデット系とかだろ。ヒールとか癒しの光とか効くんじゃね?」

「おっし、いっちょやってみるか!」


 冒険者たちが魔法を放つ。

 カタリーナは攻撃を受けて絶叫する。


「キースよ。よいな。あやつはこのまま、消滅させる」

「……」

 キースは無言で頷いた。


 まさかこんな形で、本当の別れが来るとは思わなかった。

 これで、いいんだ。こうするしかないんだ。

 死者は、眠らなければ……ならない。


 そこで新たな問題が生じる。


 ドォン、という轟音が響く。何かがその場に落ちてきたのだ。


 それは──

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