護りびと

 キースとニコルはスキルと魔法を駆使し、アラクネの子たちを次々と撃退する。

 ニコルの【神聖魔法】の前に、魔石の力は弱まっていた。数は多いものの、今の二人の敵ではなかった。

 メタルラビィもメタルスライムも、二人を援護する。そして彼らは黒いアラクネを追い詰めた。その時。


『あ、ァアアアァァァァァァ! こ、壊れる! わたしが、壊れてしまうぅぅ!』

 黒いアラクネとその子たちが、突如、【狂化】した。

 彼らの中の魔石の黒いマナが増幅し、制御不能となったのだ。彼らは生きる【災厄】と化した。

 アラクネの子たちはバシャリと弾け、黒い体液が砂塵と共に宙に巻き上がる。

 あらゆるものを切り裂く黒い竜巻が吹き荒れた。

 あれは、【黒死】だ。触れれば命はない。ユーリはすべての魔力を引き出し、これにぶつける。しかし、災厄は止まらない。

「ユーリさん! ぼくの魔力も、使ってください!」

「オレの生命力も使え!」

 ニコルが神聖魔法をユーリに向けて放つ。キースがスキルで自分の体力をユーリに分け与える。ゲイルも残された魔力をすべてユーリに託す。


(世界樹様……私に、力を……!!)


 一瞬。

 ほんの一瞬、ユーリは世界樹と繋がった。

 大いなるマナが、ユーリに流れる。ユーリは両手から浄化のマナを放った。


 ──黒い竜巻が、災厄が消滅した。


 すべての力を使い果たし、彼らは地面に膝をついた。

 ……黒いアラクネの姿がない。マナは感じられなかった。あの災厄と一緒に消滅したのだろうか。

 これで、自分の役割も終わった。ユーリは肩の荷を下ろした。


 そこに、絶望が降り注ぐ。




 炎。氷。


 それぞれを纏った二匹のケモノが、地面を砕きながら出現した。

「──七つの、ケモノ」

 ユーリは呆然とした。もはや何の余力も残されていない。

 せめてキースたちだけでも逃がせれば……。いや。もう次の瞬間には、三人とも噛み砕かれてしまうだろう。

 ああ。もっと、本が読みたかったな。物語を書きたかったな。それだけが、心残りだった。


「ふむ。七つのケモノの幼体とは珍しいな」

 声が上から降りてきた。

 それは少女の姿をしていたが、異常な質量のマナを内包していた。


「あ、あなたは……」

「本来、このようなことに介入はしないのだが……アレは規格外の存在。たまにはよかろう」

 少女に、二匹のケモノが迫る。

 危ない。そう言いかけたユーリだったが、すぐに口を閉ざすことになる。


 ──ずるり。

 ケモノたちの首が、落ちた。


 何が起きたのか、ユーリにはわからなかった。首を落とされたケモノも、自分がすでに死んでいたことに気づいていなかっただろう。二匹のケモノは、霧散していった。

「アレが成体であれば少しは歯ごたえがあるのだがな」

 少女はフッ、と笑った。


 あなたは、一体。そう言おうとしたユーリだったが、すでに少女の姿は消えていた。

 ユーリはへたりとその場に座り込んだ。周囲の魔獣の気配もすでにない。どうやら、助かったらしい。

 キースとニコルは唖然とし、口を開けたままだった。

 ……この二人の“幸運”に助けられた。ユーリはそう感じていた。


 そして。

(──世界樹様。ありがとうございました)

 彼女は遥か遠くの地にある世界樹に感謝を。そしてアレンたちの無事を祈るのであった。

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