最終話 新しい日々へ
アイリスとセレナがにらみ合っている。
「今日こそ決着をつける」
「望むところよ」
アレンはハラハラして、間に入る。
「ふ、二人とも……仲良く、ね」
「アレン。こんな、ニセモノなんぞに魅了された尻軽女なんて相手にすることない」
「なによ! 貴女だって肝心な時にずっと寝てたじゃない!」
あれからもう何日も経つのに、ずっとこんな調子だった。
「もう、ここではっきりとさせるしかない。アレン。あなたはわたしとこの女、どちらを選ぶの!?」
「えっ? え?」
セレナとアイリスは、じっとアレンを見つめた。
どうして。どうしてだ。どうしてこうなった。なぜ、二人からここまで好意を寄せられているのか、いまだによくわかっていないアレンなのであった。
「あ、あの、その……僕としては、もっとふたりのことをよく知りたいというか」
「わたしはあなたにならすべてを捧げられるし、すべてさらけ出しても構わない」
「わたしだって」
これは、まずい。どちらを選んだとしても、きっと大変なことになる。
アレンは想いをぶつけられ素直に嬉しいと思いつつも、色々と段階をすっ飛ばしたこの展開に戸惑うばかりだった。
『やーめーなーさーい! ふたりとも! そんなにガツガツしてたら、ふたりともアレンちゃんに嫌われちゃうんだからね!』
エクレールの声に、セレナとアイリスは我に返る。
エクレール。
その力のほとんどを失ったものの、奇跡的に、その存在を繋いでいた。マナの大半を失ったままのアレンにはその姿が見えなければ声も届かないものの、存在を感じることはできていた。
セレナとアイリスにも、ぼんやりとその姿が見えるくらいではあったが、その声はしっかりと届いている。
「き、嫌われるのは困る」
「そうね……ごめんなさい」
でも、アレンにはっきりしてほしい二人なのであった。
しゅんとする二人に、エクレールはとんでもないことを言ってしまう。
『もー。毎日毎日喧嘩するくらいだったらふたりともアレンちゃんと結婚しちゃえばいいじゃん』
「──ん?」
ふたりとも?
結婚?
セレナとアイリスが急に動きを静止したので、アレンは不安そうに二人を交互に見た。
「セレナ。どうあっても、引くつもりはないのね」
「もちろん。アイリスも、引くつもりはないのだろう?」
ふたりは頷いた。
本気でやりあえば、どちらも無事では済まない。アレンも悲しむ。
アレンはきっと選べない。二人とも傷つけたくなくて、答えを出せずに困り、苦しむだろう。
ならば。
「すっっっっっっごく不本意だけど、こうなった以上、仕方ないわね。わかった。アレンさん、無理に選ばなくていいわ」
「……え?」
「いずれひとりを選んでほしいけれど、“今は”我慢する。わたしとセレナ……二人とも、お嫁にもらってくれる?」
「──は、はいぃぃ!?!?!?!?」
とんでもない提案に、アレンは卒倒しそうになる。
確かに多重婚が認められている国ではあるのだが……そもそもどうして色々とすっとばして結婚する話になってる? 付き合ったり、デートしたりとか、そういう展開は? アレンは激しく混乱した!
「……結婚式とかどうしよ」
「別々にやってもいいかも。でも、招待する面子が大体被りそうな気がする。そもそもわたしの知り合いはドラゴンバスターズくらいしかいない」
「そうよね。じゃあ、合同にして派手にやりましょう。お色直しは……」
「いや、その前に新居は?」
「三人一緒に住んだほうが都合はいいけど……うーん」
勝手にどんどん話が進んでいくことに、アレンは恐怖を覚えた。
もう、遅い。遅すぎた。
アレンはようやく、やっと、今ごろ気づいたのだ。
あ。
わかった。
これ、もう逃げられないやつだ。
「ちょ、一旦落ち着きましょう。まずはミノさんに、中央都市に新居を建ててもらって……」
「ここドワーフの里でもいいのではないか?」
「わたしとしては実家が近くだと、お父様とお母さまにすぐに孫の顔が見せられていいのだけれど」
「ふむ。では、ここに別荘を建てるというのもありか」
「いいわね」
アレンは、そっと、その場から離れようとする。
しかし、左腕にセレナ、右腕にアイリスが絡みついていた。
「こうなったからには、二人とも幸せにしてよね? アナタ」
「は、はい」
アレンは覚悟を決めて、どうにか、それだけを言うのだった。
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