第12章 目覚める吸血姫

第62話 さらわれたアレン

 絶対に、許さない。


 封魔結界を破り、怒りに燃える彼女だったが……その身体はとても縮んでいた。

 力を、元の姿を取り戻すためには『血』が必要だ。それと眷属も増やさなくては。


 四天王などいらなかった。自分一人いれば、それで十分だったはずだ。自分以上に強大な存在であるはずの魔王様は、人間に敗れた。

 ならば。不死者の頂点である自分が。この世界を”永遠”に導いてやるしかない。


「ジョージ。いるの?」

「はい、おチビ……お嬢様」

「あんた、あたちがやられてるのに黙ってみてたわね」

「いえ!! いえいえいえいえいえ! そんなそんな!」

「ま、いいわ。あんたが役に立たないことはいつも通り。でも、今回ばかりは役に立ってもらうわ。血を集めてきてちょうだい。それと眷属にする……純潔の血を持つものを」

「えーー面倒ですな!! しかしこのジョージ、あなたさまのためにお役に立ちましょうぞ。あーめんどくさい!」

 ジョージは大きな蝙蝠となり、夜の空へと消えていった。


「力を取り戻したら、まずはあの四天王どもを血祭りにあげてやるわ。うふふふ」

 吸血姫の笑い声が響き渡った。


 夜は──再び、やってくる。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「こんばんは!」

 ダンジョンの帰り。突然おれたちの前に大きな蝙蝠が現れ、喋った。最近の蝙蝠はしゃべるのかー。すげーな。

「っておれもガイコツだけどしゃべるしな!」

「むむむ、ガイコツとな?」

「おう。おれはこういうもんだが」

 おれは兜の面をかぱっと開けて見せた。

「ぎゃーーー! おばけーーー!」

 ぼわん、と煙を立てて、蝙蝠は小さなじじいの姿に変化した。

「うわー! おばけー!!」

「「あばばばばばばb」」

 おれとじじいは、エクレールの電撃をくらった。


「あー。びっくりしましたぞ。わたくしめが吸血鬼でなければ死んでいましたな」

「おん? 吸血鬼なのかあんた」

「そうですぞ。まだ150歳くらいの若造ですぞ。おや、あなたさま、どこかでお会いしたことがありましたかな?」

「うーん。吸血鬼に知り合いがいたようないなかったような」

 なんか呆気に取られてるアレンたちをよそに、おれとじじいはわいわいと話していた。


「おやおやおや……ニンゲンなのはそのお方だけですかな?」

 そう。

 今回の冒険パーティは、アレン(エクレール)、レオン、ブルー、そしておれ骨。人間なのはアレンだけだった。レオンがどうしてもアレンと一緒に冒険したかったらしく、このようなパーティが結成されたのだった。


「ふむ? ふむふむふむ」

「アレンちゃんのにおいをかがないで! この変態じいさん!」

「うおーしびれますぞー! あ、肩凝り腰痛に効きますな! これはこれは失礼いたしました。あなたさまこそ、今まさにわたくしめが探し求めていた人材! 童貞でしかもマナが芳醇! 血もうまそう! カミラ様も喜びますぞ」

「カミラ? 何の話?」

「どーてーってなんだ?」

「レオン、それはな……」

「ちょっ、セブン……」

「まぁまぁ。それではちょっと失礼して」

「うっ?」

 じじいはビンに入っている液体を、アレンに吹きかけた。じじいは再びでっけー蝙蝠の姿になると、意識を失ったアレンを足で鷲掴みにした。


「それではみなさま、良い夜を!」


「……え?」

 蝙蝠は瞬く間に遠くの空へ。




「……え? アレンが……さらわれた!!!」


 おれたちの大声が──夜にこだました。



 空に浮かぶ紅い月はそんなおれたちを見下ろし、嗤っているようだった。

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