第63話 ヴァンパイアハンター、発つ
エクレールがアレンとのつながりを感じた。そう遠くには行っていないようだ。すぐに追いかけなければ。
って
「まてまてまて。思い出したぞ、カミラ! 吸血鬼の真祖で、魔王直属四天王の頂点じゃねーか! 復活したのかよあいつ!」
おれはいきなり思い出した。なんか話したことがあったような、ないような。
「してんのう? うまいのかそれ」
「うまくはねえと思うぜ。そうじゃなくて。やべーやつなんだよ! でも、あれか。血を欲しているってことは、まだ力を取り戻していない……ということか」
しかしこの面子で挑むには分が悪い。協力を要請しなければ……でも誰に?
「あー! 吸血鬼が相手なら、適任がいた!」
「お、おいエクレール! どこいくんだ!」
おれたちはものすごいスピードで飛んでいくエクレールを追いかけた。
「吸血鬼が現れたって? そりゃ、オレの出番だな!」
なんだかこいつもおれとキャラかぶるなー。
青い髪を逆立てたこいつは、ジャン。【白銀の闘鬼】アイリスのパーティーメンバーの一人だ。
「ジャンはヴァンパイアハンターなんだ!」
「またはヴァンパイアキラー。そして元ヴァンパイアだ!」
何言ってんだこいつ。
話を聞くと、なんでも吸血鬼に眷属にされた後、ある秘薬で人間に戻ったという経歴があるらしい。はて、一度吸血鬼の眷属になったヤツは二度と人間にもどれねぇって話なんだけどな。
「しかし真祖とは、厄介だな」
「でもたぶん、復活したばかりで弱ってると思うぜー」
「弱っていても吸血鬼。油断はできねぇ相手だ。すぐに準備してくるから待ってろ」
ただ待っているのもアレだから、他にも誰か声かけるかー。といっても、他に力を貸してくれるやつがいるだろうか。
「あ! セレナちゃん、いいところに!」
「エクレール? どうして
「それはアタシのセリフだけれども、実はかくかくしかじか」
「なんだと! すぐに助けに行こう!」
──さっそく、いた。
アレンとデートしたという噂のエルフさんだ。
すげーなこれ。オートスキルで【魅了】が発現してやがる。男女問わず、皆の視線が釘付けだ。確かになんで酒場なんぞにいたんだ。
とにかく。
こうして、エクレール(精霊)、レオン(犬っころ)、ブルー(スライム)、セレナ(エルフ)、ジャン(元吸血鬼)、おれ(骨)という世にも珍妙な、アレン救出隊が結成されたのだった。
待ってろよ、アレン。すぐに助けに行くからな!
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「で、成果はこの男だけなわけ?」
「今日のところはこれで勘弁してくださいですぞ」
金色の長い髪。真紅の瞳の幼女が老人に怒っている図はとても奇妙だった。
「仕方ないわねーもう。でも、確かにおいしそう。いいにおい……。この人眷属にしたら、ジョージはもういらないかも」
「そ、そんな~」
「うー……今吸うのがもったいない気がしてきた。メインディッシュもいいところじゃない、こんなの。極上のデザートともいえそう。あ、だめ、くらくらしちゃう。先にこのひとの血を吸ったら他の吸えなくなるじゃないこの馬鹿!」
「あ、あの、そのへんで」
僕は老人を蹴りまくる幼女を止めた。
「そ、それ以上近づかないで! 今のあたちには毒! あ、やばい。我慢できなくなっちゃう。ジョージ! とりあえず……地下牢はかわいそうだから、客室に閉じ込めておいて! まだあたちに近づけちゃダメだからね!」
「はいはい。では客人、こちらへ」
なんだか簡単に逃げられそうな気がする。
──いや、感じる。この女の子、すごい強いマナを持っている。今、下手に刺激しない方がよさそうだ。
エクレールとのつながりは感じる。こちらに向かってきているみたいだ。
今は……おとなしく彼らに従おう。
「素直に言うことを聞いていただきありがたい限りですぞ。では、しばしごゆるりとおくつろぎくだされ。わたくしめの同僚になる方よ」
ほっほっほ、とジョージさんは去っていった。
あれ……扉に鍵かけていかなかったけどいいのかな。僕はちょっと扉を開けてみる。
ひたり、ひたり。
廊下を青白い炎を持った何かが歩いていく。
──なるほど。見張りがいるのか。僕は扉を閉めて、部屋に戻った。
吸血鬼、か。架空の種族だとばかりと思っていたけれど、実在するなんて。
ユーリに話してあげたら喜ぶかな。
武器……雷の短剣も取り上げられなかったな。雷の力は十分に発揮できる。エクレールが来てくれれば勝機はある。
焦らず、僕は機会が来るのを待った。
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