第2章 死神男と最弱少年

死神と呼ばれる冒険者

「お前のせいだ。お前のせいでパーティが全滅したんだ」

「あの人を返して……お願いよ……」

「あんたが代わりに死ねばよかったんだ!」


 全部、お前のせいだ。

 お前のせいで、みんな死んだ。

 お前のせいで、お前のせいで──。


 お前なんかいなければよかったのに。


 怨嗟の声が頭の中でぐるぐると回る。

 だが、それにも慣れた。慣れてはいけないのに、慣れてしまった。

 そうしないと生きていられないからだ。

 死ぬことで償いになるのであれば、オレは喜んでこの命を捧げるだろう。

 

 死んで楽になるなんて許さない。許されない。

 死んだやつらには家族がいた。彼らは今も、苦しんでいる。彼らに償いをするために、オレは生き続けなければならない。それが終わる時が、オレの人生の終わる時だ。


 墓に花を添えた後で、オレは町へ戻る。

 ギルドでクエストを受けなければ。といっても、誰もオレとはパーティを組まない。だから一人でもできるような簡単な依頼をこなすだけだ。


 ドン。


 建物に入ろうとすると、いきなり子供が飛んできて、オレにぶつかって地面に転がった。

「あ、あ、あうぅ~……」

「いい加減にしやがれ! 誰がてめぇみたいなザコとパーティを組むかよ!」

「お、お願いです……ボクを……連れて行ってください」

 薄汚れた茶色い髪の少年が、ギルドから出てきた痩せ犬のような冒険者の足に縋りつく。あの瘦せ犬は確か、ヨギという名前だったか。

「うぜえってんだよ!」

 ヨギが少年を蹴り飛ばそうとしたので、俺が止めた。

「やりすぎだぜ……そこらへんにしとけよ」

「……よぅ【死神】。まだ冒険者やってんのかよ。相変わらずシケたツラしてやがるな。ちっ、もういい、どけ。いくぞ、てめぇら」

 ヨギは仲間たちをぞろぞろと引き連れて、やっぱり痩せ犬のように歩いていった。野犬の群れか。


「あ、あの、すみません。ありがとうございます」

「……まさか、オマエも冒険者なのか?」

「は、はい」

 こんな子供が、どうやってギルドの試験を突破したというのか。ああ、そういえばここの町のギルドは申請者みんな通してたな。だからヨギみたいな荒くれものみたいなやつがのさばっているんだった。

「あ、あの。あなたも冒険者ですよね? お、お願いです! ボクとパーティを組んでください! お願いします!」

「あ?」

 オレとパーティを組む?

 この町にいて、オレを知らないのか。

 思わず笑いが込み上げてきた。

「く、くくく。オマエ、オレがあいつになんて呼ばれたか聞いてたか?」

「え? あ、なんか死神って……」

「そうさ。オレとパーティを組んだヤツはみんな死ぬんだよ。だからオレは死神って呼ばれてるのさ」

「みんな、死ぬ……」

「そうだ。だから死にたくなきゃ他をあたりな」

 オレは青い顔の少年に向かって、できるだけ悪い顔で笑ってみせた。いや、まぁもともと顔は悪いのだが。

 

 ──ぐい。


 ギルドに入ろうとしたオレの服を少年が掴んだ。

「ボクと……パーティを組んでください!」

「はぁっ? オマエ、オレの話を聞いてかよ?」

「このまま……冒険できないくらいだったら、ここで死んだ方がマシです!」

 なんて力のない、痩せた腕だ。それなのに、どうしてこんなにも強いまなざしをしている。少年は宝石のような綺麗な瞳で、じっとオレを見ている。

 やめてくれ。そんな目でオレを見るのは。

 オレに期待するな。何も求めるな。

 突き放すのは簡単なのに、オレはその手を振りほどけなかった。


「……後悔することになるぞ。それでもいいんだな」

「はい!」

「……はぁ。わかったわかった。とりあえずまずはメシだ。今にも倒れそうだぜ、オマエ。冒険に出る前に死にそうじゃねぇか」

 くぅぅ……と少年のお腹が鳴るのが聞こえた。

「ご、ごめんなさい。もう何日も水しか飲んでなくて」

 ワケありか。面倒なことにならなきゃいいが。まぁ、そうなる前にこいつも近い将来に【死神】であるオレのせいで命を落とすことになるだろう。


「オレはキース。オマエは?」

「ボクは……ボクの名前は、ニコルです」

「そうか。よろしくな、ニコル」

 短い間になるだろうが。


 それでもニコルは、嬉しそうににっこりと笑うのであった。

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