成長しない少年

 ニコルとなぜ誰もパーティを組まないのか。


 まぁ、普通なら誰も組まないだろうな、こんな子供とは。

 それもそうなのだが、どうやらこの少年はらしいのだ。もちろん、年齢とか身体的な成長ではなく、冒険者としての能力【レベル】のことだ。


「どうした。オレの顔色うかがってないで、ちゃんと食え」

「は、はい……あ、ありがとうございます」

 本当にこんなに食べてもいいんですか? と何度もオレに確認しながら、ニコルはおずおずと食べ物を口にする。

 そして何度も、本当にパーティを組んでくれるのかと聞いてくる。くどい。が、無理もないことだろう。これまで何度も裏切られ、からかわれてきたに違いない。


 ニコルが冒険者になりたての頃は、世話を焼いてくれる冒険者たちもいたらしい。

 冒険の経験を積ませれば、思いがけない【スキル】も発現するかもしれない。ニコルは期待に応えようと努力した。しかし、何の【スキル】も発現はしなかった。【レベル】もあがらない。まったく強くならないというのだ。

 そしてニコルは見限られた。以来、誰もこいつとパーティを組まなくなった。ニコルは目に涙をためながら、そんなことをぽつりと話した。


「成長しない、か。能力を高めるアイテムは試してみたか?」

「……そんなレアアイテム、ボクには手が出せません」

 この世の中には、能力値を高めてくれるレアアイテムが存在する。それを使えば強制的に成長させられるかもしれない。といっても闇市くらいでしか手に入らないし、かなりの高値で売買されているからよほどの金持ちくらいしか手に入れられない。

 特定のモンスターからドロップするとも聞くが、その確率は何万分の一。しかもとんでもなく強いモンスターらしいから効率が悪すぎて誰も手を出さない。


「で、それでも冒険者を続けるわけは? あんなに必死になってまで冒険をしたいのはなぜだ」

「そ、それは……えっと」

「いや、すまん。余計な詮索はナシだな」

「あ、す、すみません」

 深入りしない方がいい。どうせすぐにお別れすることになるのだ。お互いのことを知ってどうする。


「簡単にオレのことを話しておく。オレがパーティを組んだやつを死なせてしまう原因は、オレの不幸体質にある」

「……不幸?」

「ああ。単に運が悪いっていうレベルじゃない。1,000本に1本だけハズレが入っているクジがあるとするだろ? それをオレは引いちまうのさ」

 しかも100発100中でな。それくらいに運が悪いのだ。タチが悪いのは、周囲を巻き込んでしまうことだ。

 一度【鑑定士】にオレの能力を確認してもらったが、不幸とか呪われているとか、そういった類のバッドステータスは見当たらなかった。単に運が悪いと片づけられるようなものではないのに、何も悪いところがないのだ。体質としか言いようがない。


「安心しろ。ダンジョンに行かなければそんなに悪いことは起こらねぇ。こうしてメシ食ってる分には、死にかけるようなトラブルに巻き込まれたことはねぇ」

「はぁ……」

 ニコルは半信半疑、といった感じだ。

「ま、いずれわかるさ。それにしてもオマエ、ずいぶんと汚れてるな。風呂も入ってないのか」

「……宿に泊まるお金がないので、野宿です」

 帰る家もないってわけか。

 仕方ねぇ。オレと冒険に出て命を落とす前に、少しは贅沢させてやるか。


 酒場を後にし、オレたちは宿屋に向かった。


「こ、こんな大きな部屋に泊まるの、はじめてです!」

 ニコルは目を輝かせて言う。

「風呂もあるぜ。入ってきな。寝間着もあるから、そいつに着替えろ。そのボロボロの服は……とりあえず洗濯を依頼しておいてやる」

「あ、は、はい」

「どうした? 背中、流してやろうか」

「い、いえっ! 結構です!」

 ニコルはあたふたと風呂場へと消えていった。


 風呂から出てさっぱりと綺麗になったニコルを見て驚いた。


 汚れていた髪はさらさらと金色に輝いている。

 ……もともとは金髪だったのか。あの茶色は全部汚れか。

 汚れの落ちた顔もキレイなもんで、人形みたいだった。実はいいトコのぼっちゃんなんじゃないか、このおチビさんは。

 ニコルは目をしぱしぱとさせている。

「メシ食って、風呂入ったら眠くなったか。ベッドに入って、眠っちまいな」

 ニコルはこくりと頷いて、ベッドにもそもそともぐりこんでいった。


 ……こんな子供が、なんだって冒険者の道を。

 捨て子か、それとも……。


 まぁ、いいか。明日の朝は冒険支度をして、近場のダンジョンに行って……それでしまいだ。何が起こるのか、思い知るといい。

 死なないまでも、死ぬくらいに痛い思いをすれば、二度とオレに近づくことはなくなるだろう。


 それで……いい。



 オレは、独りでいいんだ。

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